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“一重スターの宝庫” 韓国芸能界と日本の二重信仰 第4回 一重まぶたの扱い方

 そんな状況の中で、日本人は長い時間、「テレビや映画の中心として映る女性は、二重まぶたでなくてはならない」という刷り込みをされていました。女性にとって最も大切なのは顔面の美であり、顔面美にとって最も大切なのは、目がぱっちりしていること。「個性」や「演技」、そして「笑い」や「文化」という、「美」以外の土俵で勝負する女性にのみ、一重まぶたは許容される、と。
 私自身も、そのような刷り込みを子供の頃から為されていた一人です。だからこそ韓国ドラマに初めて接して、日本であれば当然のようにぱっちり目の女性がいるであろうセンターの位置に一重まぶたの女性がいることに、驚いたのです。
「この人、ドラマの中で美人として扱われているけど、そう……かなぁ?」
 と。
 実際、「梨泰院クラス」が「六本木クラス」としてリメイクされた時、キム・ダミが演じた役を務めたのは、平手友梨奈でした。役のイメージとしてはぴったりの存在感とはいうものの、彼女は当たり前のように二重まぶただった。
 ついでに言うならば、「梨泰院クラス」の主演男優のパク・ソジュンも一重ですが、「六本木クラス」ではその役が、ぱっちりまなこの竹内涼真に。「梨泰院クラス」で一重慣れしていた身には、何となくキレの足りない眺め心地となったのです。
「梨泰院クラス」にしてもそうですが、韓国ドラマにおいては、男性俳優の世界でも、一重率が、日本よりもうんと高いように思います。ぱっちり二重の男性俳優はむしろ少数派で、恋愛ドラマの主役を務めるようなイケメンとされる俳優の多くは一重まぶた。男女を問わず、韓国では「一重美」とでもいうものが、日本よりも重んじられているのではないでしょうか。
 朝青龍(元横綱)、豊昇龍(朝青龍の甥)といったモンゴル人力士の一重顔が大好きな私は、韓国ドラマを見て、「ここにも一重の楽園があったのか」と新たな発見をしたかのような気持ちになりました。モンゴル人力士とは違って、細身でスマートな一重男性を量産しているのが、韓国だったのです。
 さらに思い出したのは、世界的人気のアイドルであるBTSのメンバーです。七人組の彼等ですが、ぱっちり二重の目を持つ人は、一人もいません。全員が一重、もしくは奥二重なのかな? ‥‥的なまぶたの、モンゴロイド顔ではありませんか。
 もちろん韓国においても、女性アイドルグループは二重まぶたの人ばかりであったりはするのです。が、全体的に見ると、日本よりも一重まぶたの人の重用率が高いことは事実。ジャニーズに、ぱっちり目のメンバーが一人も存在しないアイドルグループがありましょうか。
 韓国エンターテイメント業界の状況を見ると、これは一つの戦略なのかも、とも思えてきます。韓国においては、ドラマ、映画、音楽などのエンターテイメント業界に対して莫大な補助金を投入するなど、国をあげてバックアップしていることが知られています。その効果もあって、韓国エンタメは世界進出を果たしたわけですが、その時に韓国の人々は、東アジア人の個性としての一重まぶたを、意識的にアピールしたのではないか。
 日本であれ韓国であれ、二重まぶたを美とする感覚は、西洋への憧れに通じていましょう。欧米人のようになりたくて、東アジア人は髪をパーマでくるくるさせたり、整形でまぶたを無理に二重にしたりしてきました。
 しかし整形などで作り上げたいじましい二重まぶたも、世界の人から見たら、その効果は限定的でしょう。海外では、微妙な二重まぶたよりもくっきりとした一重まぶたの方に、そしてパーマでくるくるさせた髪よりも漆黒のストレートヘアの方に、アジアンビューティーを感じる人も多い。
 韓国の人々はその辺りを鑑みて、「中途半端な二重まぶたよりも、いっそ一重まぶたを押し出した方が、世界市場では受け入れられるに違いない」と、BTSのような一重スターを意識的に作り上げたような気も、私はしています。もちろん、作品のクリエイティビティや、歌や演技の実力も優れてはいるのですが、世界進出には「一重力」も一役買ったのではないか、と推理するのです。

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酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』など多数。

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