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女風ユーザーが風俗嬢に転身……その意外すぎる理由とは?

女性用風俗、略して「女風」。かつては「男娼」と呼ばれ、ひっそりと存在してきたサービスだが、近年は「レズ風俗」の進出など業態が多様化し、注目を集めている。
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。
前回に続き、地方在住の人妻・愛菜さん(仮名・39歳)のお話を伺います。

 女性用風俗を利用していた愛菜さん(仮名・39歳)の口から出てきたのは、思いもよらない告白だった 。

「実は私、風俗で働いてみたんです。自分が風俗で元気をもらったから、自分も風俗で誰かに元気をあげられるんじゃないかと思うようになったんですよね。私は人の話を聞くことが好きだし、良いところを見つけるのも得意なんです。あと、女風で経験を重ねるうちに、セラピさんたちにフェラを褒められた(笑)。それが女性としての自信につながって、思い切って、箱ヘル(店舗型ヘルス)に応募したんですよ。それでそのまま働くことになり、身バレ対策もあって車で1時間かかる町まで通っていたんです」

 ええっ!? 私は驚いて声を上げた。
 過去の女風取材を辿っても、愛菜さんのようなケースは、これまで聞いたことがないからだ。会社勤めの女風ユーザーが風俗で働くとなると、まず想定するのはいわゆる、風俗堕ちである。風俗堕ちとは、心身ともにセラピストに沼った末にその利用料金を貢ぐため、風俗で働くことだ。同じことはホストでもよくある。ちなみに愛菜さんは地方在住の会社員だが、優良企業で給与は同年代の男性会社員と同等程度である。だから愛菜さんが風俗を始めた動機は、お金のためではない。むしろ180度違っている。

「実を言うと、働く前までは男性用風俗のお客さんに偏見もあったんです。だけど実際に働いてみると、お客さんたちがすごく優しかったんですよね。逆に私がお客さんにすごく癒された部分が大きかったんですよ。初めてのお客さんには帝王切開の傷を事前に申告するんですが、みんな『気にしないで』と言ってくれて、世の中ってこんなに優しい人が多いんだってわかった。私を『推し』と呼んでリピーターになってくださった方もいて、嬉しかったです。働いてみてわかったんですが、風俗って性欲の解消だけではなく、他愛もない話を楽しみにしている方も多いんです。女風を利用する側の私もそうなのですが、風俗業に携わって、みんな心を満たされにきているんだなぁと思いました。そうやって良い循環ができれば、みんな幸せになれるんじゃないかって」

 愛菜さんはそう言うと、優しい笑みを浮かべた。思えば家族の話をしている時の愛菜さんは、どこか悲壮感が漂い、物憂げだった。しかし今の彼女は打って変わって、生き生きとした表情だ。その様子を見ながら、私はある言葉を思い出していた。

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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