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地方在住人妻を女性用風俗に駆け込ませた「三世代同居」という牢獄

女性用風俗、略して「女風」。かつては「男娼」と呼ばれ、ひっそりと存在してきたサービスだが、近年は「レズ風俗」の進出など業態が多様化し、注目を集めている。
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。
前回は、レズ風俗を利用する美月さん(仮名・39歳)のお話でした。

今回は、地方在住の既婚女性、愛菜さん(仮名・39歳)のお話を伺います。

 女性用風俗を巡る変化で、近年感じるのは、地方に住む女性たちの潜在的な需要だ。東京のセラピストたちが、北海道や大阪、仙台や九州などの地方へと出張して、性的サービスを提供する「出張プラン」が大盛況だし、地方に進出するお店も続々と増えている。
 それだけ、地方に女性用風俗を切実に必要とする女性たちが多いことの表れだろう。地方在住の女性たちの性にどのような変化が起こっているのか。
 そんなことを考えていた矢先、私は知人の紹介で地方在住のある女性と知り合うことができた。女性は家族と同居しているため、カラオケボックスにスマホを持ち込み、オンラインで取材に応じてくれるという。
 女性に指定された土曜の昼下がり、パソコン画面に一人の女性が映し出される。女性の名前は、田中愛菜さん(仮名・39歳)という。愛菜さんはロングの黒髪で、一見大人しい雰囲気の女性である。私が女性用風俗を利用し始めた動機を尋ねると、ザラザラとした画像の向こうで少しうつむきながら話し始めた。

「実は私が外に目が向いた理由は、三世代同居にあるんです――

 三世代同居という言葉を、私は久々に聞いた気がした。つまり、愛菜さんは、夫と子ども、そして夫の両親とともに同じ屋根の下に暮らしている。核家族が当たり前となった現代において、三世代同居は年々数を減らしている。しかし、地方ではまだ極端に珍しいわけでもない。同居の理由には、地方にありがちなお家事情があった。夫の一家は家族経営の自営業。そのため、夫と付き合っていた当初から、ゆくゆくは二世帯住宅を建て、義父母と同居することが既定路線だった。自営業といっても収入は大して多くないことから、愛菜さんだけは以前から勤めていた会社で、出産後も正社員として働いている。
 家が建つ前まで、愛菜さんは夫婦と子どもで仲睦まじく暮らしていた。しかしいざ家が建ち、義父母と同居が始まると、そんな生活は一変した。愛菜さんは三世代同居の「嫁」という立場の寄る辺なさを赤裸々に打ち明ける。

「義父母との同居は、我慢したり諦めなきゃいけないことが山のようにあるんです。夫の家族は、とても仲が良いんですよね。それはそれで良いことなんですけど、どうしても私だけ疎外感を感じちゃう場面が多いんです。旦那は、そんな私のことを見て見ぬふりをして、好き勝手に遊んだりしている。私の日々のつらさや、寂しい思いにまるで寄り添ってくれないんですよ。そんな不満が溜まりに溜まって一回私の中でプツッと何かが切れたんですよね。もういいや、旦那には何も期待しないと、決めたんです。そこからですね。外の世界に目が行きはじめたのは――

 そこで言葉を区切ると、少し視線を落とした。
 愛菜さんの置かれた立場は、昔の言葉でいう「嫁いできた嫁」というポジションだ。普通に考えれば、唯一の他人ともいえ、肩身が狭いことが想像できる。理想を言えば、三世代同居では、夫や夫の両親などが一丸となって、部外者である妻を気遣うなどして全力でサポートすべきだ。しかし愛菜さんの話を聞く限り、悲しいかなそうはなっていないようだ。大家族は、第三者が傍から見るぶんには幸せそうに見えるかもしれない。だが、愛菜さんは、細々とした我慢を積み重ね、誰にも打ち明けられず、のみ込んだままの孤独感にさいなまれていたのだろう。それがすぐにわかった。小さなカラオケボックスの中で、愛菜さんの切ない独白は続く。

「夫の家族が、私に気を使ってくれているのはわかるんです。だけど、不自由さもすごくある。義父母と同居が始まってからは、友だちを家に呼んで話したりワイワイできなくなったし、休日にも自由に出かけられなくなりました。下の階には義父母も寝ているから、夫ともセックスレスになりましたね。夫の家族がリビングで同じテレビ番組を見て大声で笑い合っていると、何とも言えない疎外感を感じるんです。私だけその輪に入っていけなくて、すごく寂しいんですよね。あと辛い物が苦手な私は、カレーのとき、一人だけ鍋を分けて作ってもらうんですが、それも申し訳ない気持ちになる。細かいんですけど、そういう小さい苦しみが積み重なっていったんです」

 それはしんどい、めちゃくちゃつらい――。愛菜さんの置かれた状況を想像すると、私はそんな感情的な言葉しか浮かんでこなかった。あうんの呼吸で成り立っている家族の暮らしに、突然赤の他人が一人放り込まれることを考えてみて欲しい。多かれ少なかれ誰もが愛菜さんと同じ孤独を味わうのではないか。
 けれども、愛菜さんは耐える道を選んだ。愛する子どものために――。「プツッと何かが切れて」から夫婦の会話はなくなり、寝室を別にするようになった。それでも子どものために波風を立てず、この生活を維持しなければならないという義務感はあった。三世代同居は、表面上は問題なく回っているように見える。しかしそれはあくまで嫁の愛菜さんさえ我慢すれば、という条件付きのもろいものでしかない。

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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