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アラサー女子が「性のマンネリ」を解消するために選んだ女性用風俗の世界

女性用風俗、略して「女風」。かつては「男娼」と呼ばれ、ひっそりと存在してきたサービスだが、近年は「レズ風俗」の進出など業態が多様化し、注目を集めている。
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。

前回は、シングルマザーの恵美子さん(仮名・51歳)のお話を伺いました。
今回は、20代後半になり、セックスライフにマンネリを感じていたという朝香さん(仮名・28歳)が登場します。

「沼る」という言葉がある。何かにどっぷり「ハマる」という意味で、いつの間にか相手に夢中になり抜け出せなくなる状態のことを指す。男女が性的に濃密な時間を過ごす女風と沼は、切っても切り離せない不変のキーワードだ。
 しかし、世の中を見渡してみれば、女風という狭い世界のみならず、「推し」カルチャーがこれだけ浸透した時代にあって、私たちの周囲には様々な、「沼」が広がっていると感じる。「沼」にハマってしまったとき、人は真っすぐに立っていられるだろうか――。その「沼」の中にハマって辛さを感じたとき、私たちはそこからどう抜け出せばいいのだろう。私は、いつもそんなことばかり考えている。それはこれまでの取材を通して、多くの女性たちが「沼」の中で、もがき苦しむ姿を見てきたからだ。

 ある日、私は、そんな「沼」の中にあっても、凛と立つ女性に初めて出会った。その名前を早乙女朝香さん(仮名)という。都内在住、会社員、28歳、独身――
 朝香さんと喫茶店で会ったとき、まず驚いたことがある。いくら女風の取材といえども、開口一番、直接的に性の話ができる女性はまだまだ少ない。しかし朝香さんは、自分は性的にアグレッシブなタイプなのだと、すぐに打ち明けてくれた。自らの「性」を語る朝香さんのその口調は堂々としていて明るく、朗らかだった。それもそのはず、聞くと朝香さんはヨーロッパ某国への留学経験があるという。朝香さんは、これまでの人生で会ったことのないタイプの女性で、私は彼女の発する言葉に、不思議と引き込まれていた。それは日本にはない「風」を、朝香さんに感じたからだ。

 朝香さんが女性用風俗に興味を持ったのは、数年前だという。20代後半になって、朝香さんの中で、ある悩みが持ち上がっていた。恋人やセフレなど定期的にセックスする相手には困らなかったのだが、何の新鮮味も感じられないマンネリに陥ってしまったのである。

「最後の恋人と別れたときに、ふと気付いたんです。誰とセックスしても新しい発見が何もないし、決まった流れをなぞるだけだなって。最近性的なことがつまらなくなって、楽しめなくなってる。それで、どうしようと思ったんです。もともとすごく性に奔放なタイプで、性的なことも好きだったので、それがすごく残念に思えたんですよね。それで、風俗に行ってみようと思うようになりました」

 朝香さんの性の冒険の始まりだった。好奇心旺盛な朝香さんが初めて利用したのは、レズ風俗だった。近年、レズ風俗をテーマにした体験ルポ漫画のヒットなどもあり、レズ風俗は一般にも知られるようになった。キャストが女性であることの安心感もあるのか、最初の風俗店として選ぶ女性も多い。
 だが、いざ体験してみると、そこで展開されたプレイは、朝香さんが求めているものと少しだけ違っていた。恋人同士のようなイチャイチャしたプレイがメインだったからだ。もちろん指名したレズ風俗のキャストが、たまたまそうだったというのも、大きいだろう。それはそれで楽しい面もあったが、新たな性を開拓したいという朝香さんの目的からは、ちょっぴりズレていたという。

取材を受けてくださった早乙女朝香さん(仮名・28歳)。 撮影:菅野久美子 
取材を受けてくださった早乙女朝香さん(仮名・28歳)。 撮影:菅野久美子 
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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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