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39歳独身女性がセフレとの別れで感じた「どうしようもない寂しさ」

女性用風俗、略して「女風」。かつては「男娼」と呼ばれ、ひっそりと存在してきたサービスだが、近年は「レズ風俗」の進出など業態が多様化し、注目を集めている。
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。
前回は、女風ユーザーの「沼」化についての考察でした。
今回お話を伺うのは、39歳独身実家暮らしの女性、美月さんです。

 令和という時代は、行き場のない孤独や寂しさが溢れている時代だと感じる。そんな孤独に、人はどう向き合っているのだろう――。孤独死や女性用風俗といった、「寂しさ」に関連する現場の取材を長年重ねてきた私は、いつしかそんなことばかり考えるようになっている。
 平日の19時過ぎ。パソコンの画面の向こうでは化粧っ気のないロングヘアーの女性が、笑顔で手を振っている。里山美月さん(仮名・39歳)だ。背景に映し出されているのは、四方を壁に囲まれたカラオケボックスの狭い個室である。
 美月さんは地方在住で、かつ実家暮らしだ。美月さんのように、家族と同居している女性が一人になれる時間は限られる。少し帰りが遅いだけで家族に不審がられたりすることも多く、プライバシーを確保するだけで一苦労というのが現実だという。美月さんは仕事帰りのわずかな時間を縫ってカラオケボックスの一室にスマホを持ち込み、オンラインで私のインタビューに応じてくれている。「家族にはとても言えない話」をするために。私はそんな女性たちの本音にこそ、今の社会の問題点が如実に映し出されている気がしてならない。

 事前に教えてもらった情報によると、美月さんは女風と、レズ風俗のどちらも経験しているという。つまり、男性が女性に性的サービスをする女風と、女性が女性にサービスを行うレズ風俗、その両方を知っている稀有な女性ということになる。そして最終的に美月さんが選んだのは、レズ風俗の方だったらしい。
 そもそもなぜ、美月さんは風俗を利用しようと思ったのだろう。それは、美月さんの過去の男性遍歴に遡る。

「女風を探したきっかけは、当時のセフレとの関係がうまくいかなくなったからです。私って人生において常に好きな人がいないと無理なタイプで。だから男性とうまくいかなくなると、代わりの誰かを探しがちになる。でも最終的には、セフレに捨てられたんですよ。体の関係とわかって付き合ってはいたものの、やっぱりショックでしたね。セフレと別れてから、寂しくてたまらなかった。それが、女風に向かうきっかけになりました」

 美月さんはそう言うと一息ついて、画面の向こうの私に向き合った。
 とてもピュアな瞳だった。真っすぐで正直な女性――それが美月さんの第一印象だ。美月さんは、自他ともに認める根っからの「恋愛体質」だという。しかし、これまでの人生で、男性と両想いになったことはなく振られ続けてきた。時折言いようもない寂しさに突き動かされて、出会い系サイトにアクセスしては、既婚者や彼女持ちと知り合い、性的な関係になる。それでも少女漫画のような恋愛に長年憧れてきた美月さんは、セックスは本当に心が通じ合った人としたいという強い願望を抱いていた。
 そのため、これまで出会い系などで関係を持った男性とは、性器の挿入以外のプレイに限定して応じてきたという。

「最後に付き合ったセフレは頻繁にアナルセックスを求めてきました。私はアナルセックスで中出しされると、お腹が痛くなってその後は必ず下痢をしちゃうんですよ。だから下痢しちゃうからやめてと言ったんですが、それでもされちゃうこともあった。彼に嫌われるのが怖くて、しぶしぶ応じていましたね。彼が喜ぶからアナルセックスも応えてあげなきゃという思いでしたね。やっぱりその人が好きだったんです。だけど今思うと、本当にクズな男だったなと思います。だから、あの時に捨てられて逆に良かったなと冷静に思えるようになりました」

 美月さんの男性遍歴を聞いていると、何ともやるせない気持ちになってしまう。きっと美月さんはセフレの体ではなく、心が欲しかったのだと思う。セフレにとって美月さんは、身勝手な性欲解消の道具でしかなかったのだろう。第三者である私から見ても、それは明らかなように思えた。美月さんもそんな自分の立場は十分わかっていた。
 しかし捨てられたくない一心で、ズルズルと三年間も関係を続けていた。長期間、苦しい立場に置かれていた美月さんの気持ちを考えると、思わずため息が出そうになる。
 そんなセフレとの別れは唐突だった。他に好きな人ができたという理由で、一方的に切られたのだ。長年付き合ったセフレとの別れは想像以上に辛いもので、美月さんを容赦なく打ちのめした。「いつも誰かを好きでいたい」恋愛体質の美月さんは、代わりの誰かを求めずにはいられない。とはいえ、すぐに相手を見つけるのは難しい。そこで以前から耳に挟んでいた女性用風俗の世界をふと覗いてみることにした。面食いの美月さんにとって、そこはイケメンパラダイスだった。

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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