よみタイ

39歳独身女性がセフレとの別れで感じた「どうしようもない寂しさ」

最初はデートのみ、のつもりだったのに

 女風にはデートコースというのがある。女風というと、性的サービスばかりを連想しがちだが、実はデートコースも女風の中では密かに人気のプランなのである。デートプランは、レンタル彼氏のように、一緒に街を歩いたり食事をしたりといった限りなく健全寄りのライトなサービスである。そんな敷居の低さもあり、美月さんは気軽な気持ちで、女風を利用するようになる。小池徹平似や、B’zの稲葉浩志似など、色々なセラピストを指名してはデートした。
 美月さんはセフレと別れた後、好きではない人と体の関係になりたくない思いもあり、女風はデートのみの利用だった。けれども、たくさんのセラピストと会ううちに、次第にデートだけでは物足りなくなっていく。恋愛体質の美月さんは、言いようのない寂しさにじわじわと襲われるようになってきたのだ。

「最初は本当にセラピストとデートしているだけで楽しかったんです。寂しさをまだ我慢できていたんですよね。その時は私の中で寂しさがまだ溢れ出してなかったんですよ。だけど、しばらくするとやっぱり寂しさが心の中からどっと溢れ出してきたんです。それで、あぁどうしようと思ったんです。そんな時に見つけたのが、ジャニーズ系のセラピストでした。思い切ってその人を指名して、ご飯を食べてから、ホテルに行ったんです。それが初めての性感でしたね」

 心の中からどっと溢れ出しそうな寂しさ――美月さんは当時の気持ちをそう表現する。私もその感情には心当たりがあった。私もかつて美月さんが言うような寂しさを抱えていたことがあったからだ。
 例えば、コップの中に溜まり続ける水を想像してほしい。コップには容量があって、コップの中にじわじわと水が溜まっていく。コップの中に収まっているうちは、まだ生きていくことができる。だが、いつしかコップの水はいっぱいになる。そうなると、水はとめどなく一気に溢れ出す。コップから一度溢れ出した水は、ひたすらこぼれ続ける。それは胸が張り裂けそうなくらい辛くて苦しい。でも、それは自分ではどうすることもできない。だからもう無理、誰かに止めて欲しいと願う。

写真:photoAC
写真:photoAC

 美月さんは、何かに駆られるようにセラピストとホテルに行った。ホテルに入るとセラピストにキスとハグをされた。ギュッと抱きしめられた瞬間、心がグラリと動いた。

「セラピストにハグされたときに、『私、この人のこと好き!』って思っちゃったんです。雛が卵から返った後に、最初に見た人を親と思う感じに近いのかな。私、惚れっぽいタイプだから。だからその後の性感よりも、あのハグの方が印象に残っています」

 セラピストはお決まりの性感のフルコースをこなした。全身を舐められ、指を入れられた。気持ち良い感覚はあったが、美月さんにとって強烈だったのは性感よりも、あの一瞬のハグだった。それはまさに「溢れ出した寂しさ」が止まった瞬間だったからなのではないだろうか。
 美月さんは、そこからズルズルとそのセラピストにハマっていく。性感は、あったりなかったり。それよりもデートをしたり、裸でイチャイチャしたりハグしている方が癒された。

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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