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本当はドMなのに……女性管理職としてふるまう自分とのギャップを女風で解消

女性用風俗、略して「女風」。かつては「男娼」と呼ばれ、ひっそりと存在してきたサービスだが、近年は「レズ風俗」の進出など業態が多様化し、注目を集めている。
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。
前回に続き、SMプレイの検証のために女性用風俗を利用しているという明美さん(仮名・48歳)のお話を伺います。

パートナーとのプレイを「検証」する

 幸運なことに女風に足を踏み入れてからしばらくすると、明美さんのパートナーは奇跡的な回復を果たした。そのため現在では再びパートナーとの幸せなSMライフが復活しているという。私もその話を聞いて、ホッとさせられた。しかしパートナーとのプレイを愉しみつつ、女風の利用も継続している。その理由を尋ねると、意外なワケがあるという。

「SMプレイでは、何よりも安全を確保することが大切なんです。今はその安全性の検証のために女風を使っているんですよ。例えばパートナーが、私の乳首に針を刺したいって言うじゃないですか。すごく無邪気に嬉しそうに話すんですよ。私としては大丈夫かな、ちょっと待ってくれって思う。でもパートナーのことは受け入れたい。だからその前にプロの方に同じ行為を再現してもらって、検証してもらうんです。やっぱり安全策を取りたいですからね」

 SMにおいて何よりも「安全」を重視する明美さんの姿勢に、業界に片足を突っ込んできた身として、思わず感心してしまう。
 SMは時として命の危険がつきまとう行為だ。現に、SM業界では緊縛事故が度々話題となる。緊縛に限らず、SM行為でもし何らかの事故が起これば、体に障害が残る可能性もあるし、下手をすれば命に関わることもある。しかし、中にはそういった事故に無自覚なままプレイに臨む素人が多いのも実情だ。だからこそパートナーであるSの側に全てを委ねるのではなく、信頼を置いたプロを通じて自分の体がどこまで耐えられるのか、「検証」して見極めようとする明美さんの姿勢は素晴らしいと私は感じている。むろんプロだからといって、100%の安全はないのは断っておきたい。最終的に自分の身を守れるのは自分しかいないのだ。
 閑話休題。女風を今も利用している明美さんだが、プロの力を借ることによって着々とプレイのレパートリーを増やしているという。先日女風でチャレンジしたのは、ろうそく責めだという。使ったのは、跡が残らない低温ろうそくだ。

「パートナーに、今度ろうそく責めをしてみたいって言われたんです。だから事前にどこにどう垂らしてもらったらいいのか、女風で実践したんですよ。なので、私のろうそくデビューは女風になりますね。プロの方は色々なケースを知っているので、検証してもらいました。あくまで『検証』だから女風では、パートナーとのプレイと違って、服も着たまんまですよ。だからやっぱり私は特殊な使い方をしているんだと思うんです。一度プロで確かめたこともあって、この間は安心してパートナーとろうそくプレイを楽しめたんです。えげつないところもロウを垂らしたりしましたね、うふふ」

 えっ、えげつないところ、とは…、つまり、えーっと……。果たしてどんなプレイが展開されたのか、一瞬で想像してしまった自分に思わず苦笑をもらす。明美さんはそのときのプレイを思い出したかのように、不敵な笑みを浮かべている。ちなみにパートナーは、明美さんが女風に通っていることは知らない。これからも内緒で女風の検証作業は続けていくつもりだ。

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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