2022.10.23
イケメンと並んだ自分なんて……抵抗感を乗り越えた50代女性の「女風の楽しみ方」
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――。
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。
前回に続き、シングルマザーの恵美子さん(仮名・51歳)のお話を伺います。
女風のセラピストと待ち合わせ
予約当日。待ち合わせ場所に現れたセラピストは、残念ながらいつかのレンタル彼氏ではなかった。やはり全くの別人だったのだ。
「その時は本当にがっかりしたよね。そのセラピストさんはルックスもレンタル彼氏とは程遠かったし、会話も全然盛り上がらなかったの。気まずくてこれは一瞬、失敗したかも、って思った。だけどいまさら逃げられないから、覚悟を決めたの」
レンタル彼氏は会った瞬間から手を繋いでくれた。しかし、女風のセラピストは手を繋ぐ気配はなく、無言でスタスタとホテルに向かっていく。手を繋いでくれないんだ、やっぱりレンタル彼氏とは違うのね、と少し寂しくなった。
それでもホテルに入ってからの性的サービスには仰天した。別々にお風呂に入って、もみほぐしから始まり、キスを重ね、きわどい部分に手が伸びてくる。そしてあそこに口をつけられた瞬間、何も考えられなくなり、体中に電流が走ったのだ。
「20年ぶりのクンニだったんだけど、記憶がぶっ飛んだの。やっぱりプロは上手だって思った。すぐに快感のポイントを見つけて、そこを責めるのがすごくうまい。こっちもド素人だから、秒殺ですぐイっちゃった。体中に力が抜けて、へなへなになったの。その時に、私も女としての機能が残っていて良かった~と安心したよね。
だけど、それだけだった。やっぱり自分は心の通い合う愛のあるセックスの方が良いし、レンタル彼氏のように手を繋いだり、会話をしている時の方がずっと楽しいって気づいたんだ。それでも女性用風俗自体は、面白い世界だなと思った。だから、ここで少し遊んでみようって決めたの」
振り返ってみれば、これまでシングルマザーとして仕事に子育てに奔走してきた。だけど子どもが自立した今、そろそろ自分の人生を生きてもいいかもしれない――。ちょうど、そう思える余裕が出てきたタイミングで、女風と出会った。
女風にはデートコースがあり、性感以外の楽しみ方もある。モデルのようなレベルのイケメンたちがぞろぞろいるし、お金を払えば誰とでも会うことができるのだ。
昔ジャニーズの追っかけをしていた恵美子さんにとって、女風のセラピストは、まさしく『会える芸能人』のような存在に映ったのだ。恵美子さんは上京する度、新人のセラピストを指名するようになった。新人割だと少し安く利用できるからだ。
「それからは色々な新人さんと会って話をするようになったの。彼らは女性の欲望だったり、心だったり色々な部分と真っ正面から対峙する仕事じゃない? 彼らの話を色々と聞くうちに、女風ってすごく大変な仕事だってことがわかった。次第に女性に向き合う彼らを純粋に応援したい気持ちが、むくむくと芽生えてきたんだよね。親心に近いかもしれない」
今恵美子さんが指名を続けている「推し」は、新人時代に知り合ったセラピストたちだ。右も左もわからない新人だった彼らが今はお店を持ったり、ランキングに入ったりして、立派に成長している。それが何よりも嬉しい。聞いていると恵美子さんの女風の愉しみとは、まさに「推し」の成長を見守るファン心理だといえる。