2023.5.18
あの世とこの世のファジーな境目 第14回 死んでいるのに死んでいない人々——霊媒師家系・猫沢家にまつわる恐怖のリアル怪談
「ちっとも驚くようなことじゃないよ」
それから東京へ戻り、荷解きをしている際に、ふとあの写真のことを思い出してデジタルカメラを確認してみると、2枚撮ったうちの正常な方はそのまま残っているのに、あの魔女らしきものが写り込んだ写真だけが跡形もなく消えていた。私はますます気味が悪くなり、先日のエジンバラでの出来事について、N.Y.在住だった当時の音楽畑での相方Momus(モーマス/スコットランド人ミュージシャン。90年代の渋谷系音楽シーンでカヒミ・カリィちゃんのプロデュースなどが有名)にメールを書いた。私とMomusは『MASHCAT』という実験的な音楽ユニットを作っていて、当時は東京とN.Y.の遠隔で仕事をしているところだった。翌日、N.Y.から届いたメールにはこう書かれていた。
「エミ、そりゃあちっとも驚くようなことじゃないよ。エミが魔女に遭遇したキャノンゲートの外側のエリアは、あまりにも幽霊の目撃例が多いってんで、その一帯を発掘調査してみると、処刑された遺体がごろごろ出てきたらしい。だから、自然なことなんだ」
スコットランド出身のMomusは、こうした〝自然なこと〟に幼少から慣れ親しんで育ったのだろう。だからだろうか。彼の作る音楽世界は、どこか陰惨で影のある暗いヨーロッパの匂いがする。
ところで祖父が旅立ったとき、葬儀出席のために親類が猫沢家へわんさか押し寄せた。それで、自室を親類の宿泊部屋として明け渡した私は、母から「おじいちゃんのベッドが空いてるから、そこで寝なさい」と言われた。そりゃ空いているだろうよ……ベッドの主が死んだんだから。それにいくらおじいちゃんのベッドだからといって、やっぱりついさっきまで生きてた人が使っていたベッドに寝るのは、なんだか気持ち悪い……そう思いながら祖父のベッドで眠った葬儀の夜、枕元に祖父が立ってこう言った。
「テへ♡ オレ、まだ死んでねえんだ〜」
次回は6月15日(木)公開予定です。どうぞお楽しみに!
