2023.5.18
あの世とこの世のファジーな境目 第14回 死んでいるのに死んでいない人々——霊媒師家系・猫沢家にまつわる恐怖のリアル怪談
『パリ季記』の復刊に続き、12月には書き下ろしの『イオビエ』が発売されます。
2022年2月14日、コロナウイルスの終息が見えないなか、16年ぶりに猫沢さんは2匹の猫と共に再びフランスに渡りました。
遠く離れたからこそ見える日本、故郷の福島、そしていわゆる「普通」と一線を画していた家族の面々……。フランスと日本を結んで描くエッセイです。
前回は、父の女性問題にまつわる修羅場が綴られました。
今回は、摩訶不思議体験を引き寄せる猫沢家のある体質について……。
第14回 死んでいるのに死んでいない人々——霊媒師家系・猫沢家にまつわる恐怖のリアル怪談
バンッ!
パリの深夜、私のアパルトマンの玄関近くで謎の破裂音が響いた。恐る恐る近づいてみると、昨年のクリスマスにデコレーションとして膨らませた風船が、ひとりでに割れたらしい。ハテ、風船がだいぶ古くなって割れるということはあるらしいが、まだクリスマスからさほど経ってもいないのに割れることがあるのだろうか。その夜は寒く、窓はすべて閉め切っていたから、風で動いてなにか鋭利なものに触れたという可能性もない。
実は初めてのことではなく、こうした不思議な現象は時期によって私の場合、よく起きる。死んだ人の魂が云々ということではなく、これは生霊、つまり何かの理由で私に向かって飛んでくる気のようなものを、モノが代わりに受け止めているのだろう……と、なんとなく考えている。昔から、モノが身代わりとなって人を守るとよく言うけれど、まあ、そんなところなのだろう。
このことを受け、ふと思い立って下の弟ムーチョに連絡を取ってみた。すると案の定、
〝今朝、オトンとオカンの仏壇のところに行ってみたら、ふたりの遺影と位牌が散乱してて、なんか怒ってるっぽいぞ〟
と矢継ぎ早にメッセージが返ってきた。ムーチョ宅には、焼きちくわによく似た模様だから〝ちくわ〟と名付けられた犬がいる。しかし、昨夜は2Fの寝室にいて、ちくわの仕業とも思えないと。
〝オネエがネコイチ(「猫沢家の一族」)なんか書いてるから怒ってんじゃないの?〟
あははー確かにね〜。でも、ぜんっぜんヘッチャラ。どーぞどーぞ、好きなだけ暴れてくださいな、ってなもんだった。生前、あなた方がしでかした数々の惨事の方が、我々にとってはよっぽど生きた心地がしなかったわけだから……って、本当だ。今こうして振り返ってみると、猫沢家の人々は、本当に生きていたのかさえ疑わしい。そして死んだ後にも、今回のように何かと存在感をアピールしてくるあたりは、形がなくなっただけで、実はぜんぜん死んでいないようにも思える。
「死んでいるのに死んでいない人々……猫沢家なら、さもありなん」
と呟いた私の脳裏に蘇る、18歳までを過ごした故郷・白河での数々の怪事件と、猫沢家のスピリチュアル体質について。
はじめにお断りしておきたいのだが、私自身は無神論者の無宗教、世の中の現象は科学的な根拠がなくては信じない反スピ人間であると認識している。しかしこれは、たとえるならば〝霊媒師の家系に生まれた人が、その世界をよく知っているだけに、自身の血筋や能力を否定した反動で科学の道を志した〟みたいなものだという自覚はある。