2022.10.20
悪夢を蘇らせるトラウマスイッチは国境を越えて 第7回 風呂(バス)ガス爆発〜猫沢家の日常で繰り返される、家庭内連続爆発事故
爆風が祖父母の寝室まで一挙に押し寄せて
その日、宿題を早めに終えた私は、祖母のベッドに寝転がって漫画を読んでいた。シロちゃんが来たのに気がついて「どうしたの?」と声をかけると「いや〜、すっかり世話になっちゃってるからさ。せめてお風呂でも沸かしておこうかと思って」と、シロちゃんは給湯器の方へ向かっていった。私は「へえ〜……そっか」と生返事をしてから、また、ベッドにひっくり返って漫画を読み始めた。蛇口から勢いよく出る水音に続いて、給湯器の着火ダイヤルをカチッ、カチッとひねる音がする。「あれ? おかしいな」と、シロちゃんの呟く声が聞こえた次の瞬間だった。
ドッカーーーーーーーーーーン!!!!!!
爆風が祖父母の寝室まで一挙に押し寄せて、家全体が揺れたかと思うと、辺り一面、真っ白な煙が充満して何も見えなくなった。強烈なガス臭と舞い上がる粉塵で呼吸もまともにできず、目が開けられない。祖父母のベッドには、田舎の家屋には不釣り合いな高い背もたれがついていて、間一髪、私はそれに守られた。その背もたれは、金色の布地に線画のバラ模様があしらわれた、まさにマリー・アントワネット風の家具調ベッドだった。(毎晩、全裸でアントワネットに同情しておいてよかった。涙)辺りが少し見え始めた時、ハッと我に返って「……シロちゃん!!」と叔父の名を呼んだ。そして、恐る恐るベッドの背もたれから顔を出した。立ち込める煙の中から現れた叔父の姿を見て、「大丈夫⁈」よりも先に、思わず「に、似合う‼︎」と叫んでしまった。そこにいたのは、まさにドリフの爆発コントと見紛うばかりに髪の毛をモジャモジャと逆立てた〝実験失敗博士〟そのものだったのだ。爆風で粉々になった風呂場の窓ガラスの破片で、着ていた服ごと全身ズタズタに切り裂かれていたシロちゃんは、とても笑える状況ではないのにもかかわらず、だ。
「なんじゃコリャアアアアアアアア!!!!!!」
昭和の名作ドラマ〝太陽にほえろ!〟で、松田優作扮するジーパン刑事の殉職シーンのごとく、シロちゃんの悲痛な叫びがあたりにこだました。爆音を聞きつけた下の階の大人たちが血相を変えて駆け上がってきて、その後シロちゃんは救急車に乗せられ、病院送りとなった。
