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祖父とゴッホとフランスと―16年ぶりのパリで故郷の家族を思う 第1回 リヴォリ通りの呉服店

料理レシピエッセイ『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』、愛猫との日々を描く『猫と生きる。』がロングセラーとなっている猫沢エミさん。 2022年2月14日、コロナウイルスの終息が見えないなか、2匹の猫と共に再びフランスの地を踏み締めた。16年ぶり、二度目の移住のために。 遠く離れたからこそ見える日本、故郷の福島、そしていわゆる「普通」と一線を画していた家族の面々……。フランスと日本を結んで描くエッセイです。

第1回 リヴォリ通りの呉服店

1970年代のパリ

 2022年2月14日、2匹の猫と共に再びフランスの地を踏み締めた。16年ぶり、二度目の移住のために。

 さかのぼること20年前の2002年。私は、先代の愛猫ピキと共にフランス語を学ぶために移住し、その後4年間アパルトマンを借りて、パリと東京を行ったり来たりしていた。その一度目の渡仏の直前、母が突然、親戚の話をし始めた。

「遠縁のおじさんに、70年代、パリに呉服店を出した人がいるのよ。商売的には大失敗で大損して帰ってきたらしいんだけど、日本文化を広めたっていう功績で、どこかから表彰を受けたって聞いてるけど」(私の実家と一族は、福島県の白河市で代々呉服店を営んでいる)

 なにそれ、ほんと? 初めて聞いた。と思った。けれど、さほど驚きはしなかった。それは、我が〝猫沢家〟の人々がこれまでに繰り広げてきた、数々の嘘みたいな伝説からしてみれば、ごく真っ当な部類に入る話だったからだ。しかし、また思い切ったことをしたものだな、おじ上は……。ルーヴル美術館に面したパリの大動脈、リヴォリ通り。70年代、土産物屋が軒を連ねる観光地に、こぢんまりとした店を構えて商売を営んでいるおじの姿を想像してロマンを感じてみたりしながらも、〝猫沢家注意警報〟が脳内で同時発令されていた。

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猫沢エミ

ミュージシャン、文筆家。2002年に渡仏、07年までパリに住んだのち帰国。07年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー≪BONZOUR JAPON≫の編集長を務める。超実践型フランス語教室≪にゃんフラ≫主宰。著書に『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』『猫と生きる。』『イオビエ』など。
2022年2月に2匹の猫とともにふたたび渡仏、パリに居を構える。

Instagram:@necozawaemi

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