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藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」
バツイチ、シングル子なし、女40代、フリーランス。
編集者、ライターとして、公私ともに忙しく過ごしてきた。
それは楽しく刺激の多い日々……充実した毎日だと思う。
しかし。
このまま隣室との交流も薄い都会のマンションで、
これから私はどう生きるのか、そして、どう死ぬのか。
今の自分に必要なのは、地域コミュニティなのではないか……。
東京生まれ東京育ちが地方移住を思い立ち、鹿児島へ。
女の後半人生を掘り下げる、移住体験実録進行エッセイ。

東京と鹿児島の持ち家、二重ローンからの心地よい脱出

数々の出会いを呼ぶ、励ましティータイム

 仕事とマンションの掃除で、東京行きを翌週末に控えたある日、デザイナーの川村さんからLINEが入りました。
「ねえねえふじわらさん~来週の土曜日お茶しない?」
 なんと、ちょうど私が東京に戻る日ではありませんか。品川駅から比較的近いホテルだったので、トランクを抱えてそのまま行けばなんとか間に合いそうです。絶好のタイミング。鹿児島に移住したことと、少し遅刻するけど参加する旨を伝えて、手帳に新たな予定を書き込みました。

 もともと10年ほど前に仕事で知り合った川村さんですが、プライベートでも会うようになって、今では年に1、2回お茶をする間柄です。ふたりで行くこともありますが、気まぐれに開催されるお茶会は、毎回ほぼメンバーが違うので、近い業界の新たな出会いがあって、それもまた面白いのでした。
 5人でランチをしてお話をするという日常的な出来事ですが、前日に美しくデザインされたインビテーションが届きました。
“Encourage one another. ようこそ励ましティータイムへ”
 裏には、数か月前に入院してたくさんの人に励まされたので、自分も誰かを励ましたいという思いから、好きな人を呼んでお茶会をすることにした旨が書かれていて、この一枚が日常を特別なものにしてくれるのでした。
 
 当日は羽田空港から京急線で品川駅に向かい、そこからタクシーで現地へと向かいました。大きなトランクがあっても、ホテルなら安心です。
 到着すると、川村さんと、お友達でクリスチャンの康子さん、以前インタビューもさせていただいた服飾デザイナーのスズキさん、そして新鋭スタイリストの野崎さんと、バラエティに富んだ面々が揃っていました。
 いそいそとお土産の霧島茶を配り、初対面のふたりとの挨拶を済ませて会話に加わります。だいぶみんなと打ち解けたところで、川村さんに 「そういえば、マンションはどうしてるの?」と聞かれました。
 今はもうほとんど帰っていないので、もろもろ処分したら不動産会社に仲介を頼もうと思っていると伝えると、
「ちょうどいいじゃない。聞いてみれば?」と野崎さんに向かって言いました。
 ん? 何か展開あり?

 話によると、野崎さんはアシスタントを卒業して間もなく、仕事が安定していなかったのでマンスリーマンションに住んでいたそうです。数か月前に賃料を値上げするという通知が来て、なんとプラス8万円の金額を提示されたとのこと。
 今は仕事も安定してきたので引っ越しを考えていて、住みたい街で物件を捜索中。ところがなかなか見つからず、マンションの更新時期が間近に迫っているのだそうです。
 
 なんとタイミングのいい話。干天の慈雨、闇夜の提灯。
 部屋の借主を、SNSで友人に向けて募ってもよかったのですが、トラブルが起きたときに逆に大変かなあと、この話を聞くまでは不動産会社に頼むつもりでいました。でも、知っている人、しかもとても感じのいい人が住んでくれるなら、それに越したことはないと一瞬でくるりと考えが変わりました。そう思えたのは、野崎さんだったからだと思います。
 たとえ1、2か月の話でも、住んでもらったほうが有難い。私が東京にいる期間で、ふたりの日程を合わせると、あっという間に内見のスケジュールが決まりました。

 スズキさんにはインタビューでは聞けなかった話を伺い、康子さんからはメッセージが入ったカードをもらい、野崎さんはもしかしたら我が家の住人になるかもしれない。
 たくさんの出会いを提供してくれた川村さんのおかげで、いい東京のはじまりを迎えました。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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