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「精子が死んじゃうと困る」不妊治療に没頭する妻の異常行動。その意外な真意と、夫の反応(第19話 妻:麻美)

あなたは「結婚」という制度に疑問を感じたことはないだろうか。 連日メディアを騒がせる不倫ゴシップは氷山の一角。女性の社会進出、SNSや出会い系アプリの普及……結婚制度が定められた120年以上前とは、社会も価値観も何もかも違っているのだ。 これは時代にそぐわぬ結婚制度の抜け穴を探し始めた、とある夫婦の物語。 仮面夫婦状態の櫻井夫婦。妻・麻美は夫とのセックスレス・浮気に嫌気がさし、自身も婚外恋愛を楽しみながらエステサロン起業に励み離婚も考えていた。しかし「子どもは作らないんですか?」というSNSアンチの言葉や子連れの友人との遭遇により、夫との体外受精に踏み切ることを決意したのだった――。 前話はこちら、全話一覧はこちら。 (隔週土曜で更新予定です)

不幸は、隠すよりも曝け出してしまった方が武器になる

冷たく狭い、無機質なベッドに横たわりながら、麻美はようやく薄目を開け、口から大きく息を吐いた。

下腹部の鈍痛がまだ消えず、頭もクラクラする。

不妊治療にはそれなりの痛みやストレスが伴うものだというのは何となく分かっていたが、少々甘く見ていたようだ。

麻美は一刻も早く体外受精をすることを望んだが、訪れた有名医院の女医にそれを告げると、少しばかり冷たい表情を向けられ「まずは検査を」とほぼ強制的に初診は終わった。

そして今日、様々な検査をいっぺんに受けることになったのだが、卵管に造影剤を流し込む検査のあまりの痛みに悲鳴を上げ動けなくなってしまったのだ。

――どうして、女ばっかり……。

こうしたグロテスクとも言える処置が妊娠するまで何度も続くと思うと気が遠くなった。一方、康介はただ射精をするだけ。「絶対に産む」と決めたのは自分自身であるものの、どうしても理不尽に思える。

さらに検査の結果、麻美の身体に特に問題はないことから、体外受精に踏み切る前に、排卵日に合わせて性交渉を行う「タイミング療法」や「人工授精」を勧められた。一体、何のためにそれほどの労力や時間をかける必要があるのか。

――不妊治療とはいえ、なるべく自然に近い形で妊娠するのが望ましい――

暗にそんな価値観を押し付けられているような気がしてならず、麻美は舌打ちでもしてやりたくなる。

海外では精子バンクからネットショッピングのように目や髪の色を選び、未婚の女が一人で体外受精をして出産することも徐々に増えているとも聞くのに。政治などさらさら興味はないが、「だから日本はダメなんだ」と、どこまでも気分が不貞腐れていく。

「夫とはセックスレスですし、不妊治療にも協力的とは言えません。ですので、次回の排卵日に採卵して体外受精してください。お願いします」

けれど開き直って堂々と正直にそう宣言したとき、麻美の気分は晴れた。

厳重なマスク越しであっても、診察室の女医と看護師が麻美のセリフに少しばかり狼狽えたのが分かり、可笑しくなってしまったからだ。

身の上の不幸は、隠すよりも曝け出してしまった方が武器になる。

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新刊紹介

山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

Instagram●Lisa_fluffy
Twitter●山本理沙/WEB作家




安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

オフィシャルサイト●安本由佳
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Twitter●安本由佳|WEB作家@軽井沢

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