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子作りを拒否し続けてきた夫が、妻の「体外受精提案」に快く応じた理由(第18話 夫:康介)

インスタグラムで知る真実…「愛人枠」の女の嫉妬

『ごめん、今日は難しい。連絡する』

沈黙を破り、ようやく届いた短すぎるLINE――逃げの姿勢がありありと滲む文面を見つめながら、瑠璃子はふつふつと怒りが湧き上がるのを感じた。

彼と抱き合ったのは、つい3日前のことだ。

あの日、彼はリモートワークの合間に瑠璃子をベッドに誘い、曲線を確かめるように何度も肌を撫でながら「もう離れられないよ」などと囁いていた。

ようやく心を掴んだと、確かな手応えも感じていたのに……急な態度の変化は一体どういう訳なのか。

――まさか、麻美さんに私たちの関係がバレたとか……?

なるほど。確かにそれなら、しばし連絡できないのも仕方がないかもしれない。そうならそうと言って欲しいが、彼のことだからかなり慎重に行動している可能性もある。

少しばかり気分が良くなり、瑠璃子は顰めていた眉を戻してLINEを閉じた。そのままスマホをテーブルに戻そうとして、なんとなくその手を止めた。

麻美のインスタグラムを覗きたくなったのだ。

康介の妻・麻美のインスタグラムアカウント@aasamii_daysを開くと、ますますフォロワーが増えており、まもなく4万人に届く勢いだった。

白けた気持ちでスクロールし、最新投稿をチェックすると、瑠璃子の好みとは真逆の、ゴテゴテした内装の店舗写真がアップされている。テキストを読むと、なんでも彼女がオーナーとなり、エステサロンを開業することにしたらしい。
――起業って、エステサロンだったんだ……。

『働く必要なんかないのに、起業するとか言い出してさ……』

酔いに任せて愚痴っていた康介のセリフを思い出し、瑠璃子は苦々しさを噛み締めた。

康介という夫がいながら他所の男をたぶらかしてみたり、大人しく専業主婦でいればいいものを、反対を押し切ってまで起業してみたり。呆れるほど強欲な女だ。

まあでもその強欲さが仇となり、妻に不満を募らせた康介が自分に関心を向けるようになったのだから有り難く思うべきだろうか。

@aasamii__daysのアイコンが赤く光っているのに気がついて、導かれるままクリックしてみる。

するとそこには、見覚えあるヴァンクリーフ&アーペルのブレスを身につけ、着飾った麻美の姿があった。

――!?

鼓動が早くなるのを感じながら、視線を右下に向ける。

次の瞬間……小さく、しかしわざわざ『#夫とディナー』と書かれたハッシュタグを目にして――瑠璃子はどす黒い嫉妬心が渦巻き出すのを止められなかった。

(文/安本由佳)

※次回(妻:麻美side)は10月9日(土)公開予定です

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新刊紹介

山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

Instagram●Lisa_fluffy
Twitter●山本理沙/WEB作家




安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

オフィシャルサイト●安本由佳
Instagram●yuka_yasumoto
Twitter●安本由佳|WEB作家@軽井沢

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