連日メディアを騒がせる不倫ゴシップは氷山の一角。女性の社会進出、SNSや出会い系アプリの普及……結婚制度が定められた120年以上前とは、社会も価値観も何もかも違っているのだ。
これは時代にそぐわぬ結婚制度の抜け穴を探し始めた、とある夫婦の物語。
仮面夫婦状態の櫻井夫婦。妻・麻美は夫の浮気を都合良く利用し、自身も晋也との情事を楽しんでいる。さらにエステサロンの起業も順調に進み、順風満帆だったのも束の間、「子どもは作らないんですか?」というSNSアンチの言葉や子連れの友人との遭遇により、どうしようもない敗北感を味わうのだった――。
前話はこちら、全話一覧はこちら。
(隔週土曜で更新予定です)
2021.9.11
「産まない」選択はできない。セックスレスに傷つき、不倫に走った妻が下した最後の決断(第17話 妻:麻美)
「産まない」選択ができるほど、強い女ではない
剥きたての卵のような、友里恵の子どもの柔らかそうな白い肌が忘れられない。
そして、夜中のマンションのロビーで、疲れながらも愛おしそうに我が子を撫でていた母の顔。何も言わずとも分かる。彼女は自分の子どもが可愛くて可愛くて仕方がないのだろう。そこには絶対的な愛があった。
きっと、男で得られる一時的な恋愛感情など比にならない愛。
今どき、子どもを産むことばかりが女の幸せなどと思うわけではない。とはいえ、自分が子どもを望めない理由もないはずだ。麻美はまだ32歳で夫もおり、経済的に余裕もある。「できない」と決まったわけでもないのに、みすみすその可能性を手放すなんて酷く理不尽ではないだろうか。
「…………」
麻美は悔しさに一人唇を噛む。

このご時世、子どもなど産まずとも、独身でも、生き生きと人生を歩んでいる女性はいくらでもいる。
けれど麻美は結局のところ、表面的なステータスに守られていないと自分で自分の価値を認められないのだ。最近は起業や晋也との時間で気を紛らわせてはいたが、揃えるべきカードはすべて揃えない限りは、こうした卑屈な気持ちをいつまでも捨てられないだろう。
「産まない」選択ができるほど、強い女ではないのだ。
――子どもが産めないなら、やっぱりこうちゃんと結婚してる意味なんかない……。
妻の屈辱的な思いは、夫への怒りへと変わっていった。