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妻と間男の密会を目撃…浮気を知った夫が、逆に「離婚はしない」と決めた理由(第16話 夫:康介)

嫉妬に狂う夫がたどり着いた結論

その夜、自宅に戻っても麻美はいなかった。夫に見られたとも知らず、あの男と一緒にいるのだろう。

「ああ、頭が痛ぇ……」

酔っているところに、不良妻が余計なことばかりするせいで頭が割れそうに痛む。自分以外には誰もいないリビングで、康介はあえて大きな声を出し、そして深くため息を吐いた。

「栗林と飲みに行く」と、わざわざバカ正直に事前報告した自分が心底恨めしい。麻美はきっと、心の中で小躍りしていたはずだ。そしていそいそと浮気相手に会いに行ったのだ。

――俺は、どうするべきだ……?

ソファにどさりと倒れ込み、疲弊し切った頭で考えてみた。

最適解は出そうになかったが、真正面から追及するのは得策じゃないということだけはわかる。そんなことをして追い込んだら、麻美は開き直って家を出ていく気がする。

すぐにでも電話をかけて怒鳴ってやりたい衝動を押し殺し、康介はスマホを放り投げた。そしてギュッと強く、目を閉じた。

次に康介が現実を認識した時、すでに窓の外は明るくなっていた。

「ねぇ」

近くで麻美の声がし、重たい瞼をかろうじて開ける。すると、どうやらシャワーを終えたばかりの妻が、酒に酔って寝落ちした夫を静かに見下ろしていた。

「シャワー浴びたら? 仕事でしょ」

呆れた、と言わんばかりの声色だ。自分の方こそ、あの下品な男と呆れた行為をしてきたクセに……。

口を開くと余計なことを言いそうで、黙ったままむくりと起き上がる。未だズキズキ痛む頭を押さえ、体を引きずるようにしてゆっくり浴室へと向かった。

ところがその数秒後――さらに麻美の尖った声が背後から追いかけてきた。

「そうだ、こうちゃん」

ああ、イライラする。康介は振り向かぬまま立ち止まり、そっと眉間にシワを寄せた。努めて抑揚をつけず「何」とだけ口を動かす。

しかし次に妻が発した言葉は、平穏を保とうとする夫の努力を打ちのめした。

「週末は家にいる? 大事な話があるの……こうちゃんと私の、今後について」

――俺たちの、今後……?

それって、まさか……。嫌な予感と焦燥が身体中をめぐり、康介は冷笑を浮かべる妻に怯えた目を向けた。

(文/安本由佳)

※次回(妻:麻美side)は9月11日(土)公開予定です

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新刊紹介

山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

Instagram●Lisa_fluffy
Twitter●山本理沙/WEB作家




安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

オフィシャルサイト●安本由佳
Instagram●yuka_yasumoto
Twitter●安本由佳|WEB作家@軽井沢

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