2021.8.28
妻と間男の密会を目撃…浮気を知った夫が、逆に「離婚はしない」と決めた理由(第16話 夫:康介)
嫉妬に狂う夫がたどり着いた結論
その夜、自宅に戻っても麻美はいなかった。夫に見られたとも知らず、あの男と一緒にいるのだろう。
「ああ、頭が痛ぇ……」
酔っているところに、不良妻が余計なことばかりするせいで頭が割れそうに痛む。自分以外には誰もいないリビングで、康介はあえて大きな声を出し、そして深くため息を吐いた。
「栗林と飲みに行く」と、わざわざバカ正直に事前報告した自分が心底恨めしい。麻美はきっと、心の中で小躍りしていたはずだ。そしていそいそと浮気相手に会いに行ったのだ。
――俺は、どうするべきだ……?
ソファにどさりと倒れ込み、疲弊し切った頭で考えてみた。
最適解は出そうになかったが、真正面から追及するのは得策じゃないということだけはわかる。そんなことをして追い込んだら、麻美は開き直って家を出ていく気がする。
すぐにでも電話をかけて怒鳴ってやりたい衝動を押し殺し、康介はスマホを放り投げた。そしてギュッと強く、目を閉じた。
次に康介が現実を認識した時、すでに窓の外は明るくなっていた。
「ねぇ」
近くで麻美の声がし、重たい瞼をかろうじて開ける。すると、どうやらシャワーを終えたばかりの妻が、酒に酔って寝落ちした夫を静かに見下ろしていた。
「シャワー浴びたら? 仕事でしょ」
呆れた、と言わんばかりの声色だ。自分の方こそ、あの下品な男と呆れた行為をしてきたクセに……。
口を開くと余計なことを言いそうで、黙ったままむくりと起き上がる。未だズキズキ痛む頭を押さえ、体を引きずるようにしてゆっくり浴室へと向かった。
ところがその数秒後――さらに麻美の尖った声が背後から追いかけてきた。
「そうだ、こうちゃん」
ああ、イライラする。康介は振り向かぬまま立ち止まり、そっと眉間にシワを寄せた。努めて抑揚をつけず「何」とだけ口を動かす。
しかし次に妻が発した言葉は、平穏を保とうとする夫の努力を打ちのめした。
「週末は家にいる? 大事な話があるの……こうちゃんと私の、今後について」
――俺たちの、今後……?
それって、まさか……。嫌な予感と焦燥が身体中をめぐり、康介は冷笑を浮かべる妻に怯えた目を向けた。
(文/安本由佳)
※次回(妻:麻美side)は9月11日(土)公開予定です