2021.7.3
「離婚しちゃえばいいのに」他人の夫と寝た女が抱く、優越感と身勝手な妄想(第12話 夫:康介)
情事の翌朝…不倫女が抱く、束の間の優越感
自室のベッドに横たわったまま、小坂瑠璃子は静かに右手を伸ばしてみた。
まるで赤子に触れるように優しく、シーツの皺をそっと撫でてみる。心なしか、つい先ほどまでここで寝ていた男の気配を感じとり、安堵とも優越ともつかない感情が広がった。
今日はこのまま、終日をベッドで過ごしたい。櫻井康介は帰るべき場所に戻ってしまったが、せめて残された温もりに包まれていたかった。
そうしていれば、ありありと思い出せるのだ。抱き寄せられた腕の力強さ、思うよりずっと滑らかだった肌、夢中で吸った唇の柔らかさや優しい視線、息遣いまで。
それらは全部、夢じゃない。現実世界で、この私だけに向けられたもの――。
「離婚しちゃえばいいのに」
一切の罪悪感も躊躇もなく思わず言葉が漏れ、その声の冷たさに自分でゾッとした。
しかし康介の話では、妻の麻美にも別の男がいるらしいのだ。
瑠璃子が初めて心を開きたいと思った男を、あっという間に惚れさせてセレブ妻となった女。エリート弁護士の夫に養われ、優雅な専業主婦ライフを謳歌しているくせに、その立場もわきまえず別の男に走る女……。
身の程を知らない彼女に、何かしらの罰がくだっても仕方がない。正確な分析は難しいが、瑠璃子が康介を誘った動機の中には、そういう種類の感情も含まれていた気がする。
彼女の悪事に比べれば――私のしたことくらい、許されてもいいはずだ。