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小野一光「限界風俗嬢」
過去の傷を薄めるため……。「してくれる」相手が欲しい……。
性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。

これまでの連載では、元SM嬢のアヤメ歌舞伎町で働く理系女子大生リカセックスレスの人妻風俗嬢ハルカパパ活・パーツモデルで稼ぐカオル妊婦風俗嬢・アヤカの5人の女性を紹介してきました。

今回は、90年代後半に女子大生風俗嬢として活躍していたミホさんが登場。
今から20年以上前の、風俗嬢たちのリアルな空気感に迫ります。

あのころ私は若かった……90年代の女子大生風俗嬢

大学名を出して雑誌のグラビアに登場

 二十年という歳月について考える。
 人間であれば誕生から成人式が行われる年までの間となるわけで、途中にはいくつもの大きな変化がある。
 なまなかではない時間だ。
 私が初めてミホと出会ったのは二十三年前。当時、私は三十一歳のフリーライター、彼女は二十歳の大学二年生だった。
 知り合った場所は東京・五反田にあるマンションヘルス。本番を除くほとんどの性行為を提供するその店で、私は取材者として、彼女は被取材者、つまりその店で働く風俗嬢として、言葉を交わしたのが始まりである。
 身長百五十センチメートルと小柄ながら、メリハリの効いたスタイルの持ち主。ショートヘアにほぼノーメイク、クリッとした大きな瞳がくるくる動く、活発で物怖じしない印象の女の子だった。
 
 当時、学生の風俗嬢を探していた私に対し、店側は彼女を早稲田大学在学中の女の子として紹介してきた。通常、学生証の確認を行うのだが、「彼女、学生証を見られて本名を知られるのを極端に嫌がってるんですよ」との店長の言葉を鵜呑みにして、結局そのまま記事にした。
 それが嘘だったということがわかったのは、彼女のノリの良さに心を動かされ、個別に二度目の取材を申し込んだときのことだ。
「ごめんなさい。自分の素性がバレるのが怖くて、小野さんに嘘をついてたんです。本当は××大学の学生なんです」
 電話口でミホは素直に謝った。彼女が口にしたのは、偏差値では早稲田大学と変わらない、有名私立大学の名前だった。事実、彼女は大学受験で早稲田大学にも受かっていたが、現在の大学を選んだのだという。虚偽の説明はあくまでも店側の問題であり、みずからすぐに訂正した彼女の態度には清々さを感じた。
 以来、ミホには××大学の現役女子大生として、多くの取材に協力してもらった。そのなかには、名門大学の女子大生ばかりを集めた週刊誌上でのヌードという企画もあった。
 それは早・慶・上智など、複数の大学の現役女子大生にヌードになってもらい、顔写真と生年月日の一部、名前と学生番号を消した学生証とともに、グラビアページで一堂に会するというもの。ミホはそこに実際の大学名で登場することを快諾。××大学の現役女子大生として、顔の一部を隠して誌面でヌードを披露している。
 現実の大学名を出すことは、先の風俗店取材での「素性がバレるのが怖くて」という点と矛盾するのではとのご指摘もあるだろう。だが、風俗店取材の場合は記事に店名を記す必要があるため、大学名を出せば、その学校の関係者が来店することで、素性がバレてしまうリスクがある。一方でグラビアに関しては、編集部からの情報漏れがない限りは、秘密を守り通すことができる。そうした信頼から、彼女も出演してくれていた。

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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