性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。
これまでの連載では、元SM嬢のアヤメ、歌舞伎町で働く理系女子大生リカ、セックスレスの人妻風俗嬢ハルカ、パパ活・パーツモデルで稼ぐカオルの4人の女性を紹介してきました。
今回は、小野さんが出会った“妊婦風俗嬢”アヤカの人生が語られます。
2020.10.2
お腹に三人目がいます……妊婦風俗で働くアヤカ
三年前の出会い
三年前のこと――。都心からやや離れた郊外の駅前。車を運転する私の視界のなかに、黒いTシャツに白いカーディガンを羽織り、デニムを穿いたアヤカの姿が現れた。妊娠七カ月ということで、マタニティーウェア姿を想像していたが、最近の妊婦さんはそうでもないらしい。
「今日が体調のいい日でよかったです。なんかもう、つわりがひどくて、その日ごとに体調が全然違うんですよ」
助手席に乗り込むなり彼女は言う。ストレートロングの黒髪で、くっきりした二重の目元に彫りの深い顔立ちから、歌手のアンジェラ・アキを思い浮かべる。横に座ると大きく膨らんだお腹が目立つ。
車は駅からさほど離れていない場所にあるラブホテルへと向かった。
「へーっ、こんなところにあるんですね。この町に引っ越してまだそんなに経ってないんで知らなかった」
駐車場に車を停めて受付へと進む。
「うわっ、高っ! このなかだと、この部屋がいちばん安いですよ」
平日の昼下がりにもかかわらず、ホテルは意外と混んでいる。客室紹介のパネルを見ると、空室なのはわりといい値段の部屋ばかりだ。彼女はこちらの懐事情を配慮して、もっとも安い部屋を迷わず指差す。
「いやあ、気を遣ってもらいありがとう」
「いえいえ、どうせなら安いほうがいいじゃないですか」
そう言って笑顔を向ける。