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小野一光「限界風俗嬢」
過去の傷を薄めるため……。「してくれる」相手が欲しい……。
性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。

これまでの連載では、元SM嬢のアヤメ歌舞伎町で働く理系女子大生リカセックスレスの人妻風俗嬢ハルカの3人の女性を紹介してきました。
今回は、処女なのに風俗嬢として働く女性・カオルが登場。
処女なのになぜ風俗? そこには彼女特有の「こだわりのなさ」が関係しているようで……。

三次元の男性には興味ない……処女で腐女子の風俗嬢

新入社員はSM嬢

 その場にそぐわない服装、というのがある。じつは、彼女との初対面がそうだった。
 二年前の春のこと。連載をしていたスポーツ紙で取材相手のSM嬢として、はりつけ台の置かれたプレイルームに現れたカオルの服装は、リクルートスーツだったのである。
 正確なことをいえば、その時点で彼女はすでに会社勤めをしていたので、“リクルート”ではないのだが、セルフレームの眼鏡に着慣れていないスーツ姿は、どう見ても就職活動中の女子大生だった。しかも彼女は、入社して間もない会社で新入社員としての仕事を終えた足で、店に出てきたのだという。
 以前、コスプレをするイメクラの取材で、OLの制服を着た女の子がいるにはいたが、それはあくまでも実生活とは異なる衣装。これほどまでにリアルな服装で現場に現れた女の子に会うことは、滅多にない。

 聞けば、カオルが現在の店に入ったのは、就職前の二月とのこと。それまでにSMの経験はなく、初体験だと語る。ちなみに、ということで就職先の“業種”を尋ねると、彼女は躊躇ちゅうちょなく、一部上場企業である外食チェーン会社の“社名”を挙げた。ここまではっきりした物言いのときに嘘はない。ほんとうにそこで働いているのだろうと思った。続いて卒業した大学に質問が及ぶと、あっさり首都圏の難関国立大学の名が出てきた。これも恐らく真実なのだろう。
 いやあ、なんだか面白い女の子に当たったようだ。その場にいる私の頬は緩んでいたに違いない。
 私は彼女への取材結果を〈いかにも瑞々しい新入社員といった印象〉との書き出しで、店の紹介に続いて次のような記事にまとめた。

〈「いまの店に入ったのは二月で、初めての風俗です。もともとSMに興味があり、この仕事をしている友人に誘われたのでやってみることにしました」
 店でのプレイは、すぐに気持ち良くなることができたという。
「私ってクリが感じやすいんですね。舐められたりすると、もうなにも考えられなくなっちゃうんです。いっぱい濡れたところで、クリと中を同時に攻められたら、すぐにイキそうになります」
 これまでにいちばん興奮したプレイについて尋ねたところ……。
「前と後ろの両方を同時に、バイブで攻められたことがあるんですけど、快感と興奮で声が抑えられなくなりました」
 攻められるだけでなく、自分から攻めるのも大好きだと語る。
「ご奉仕は大好きですね。自分が一生懸命やって相手の反応がいいと、すごく嬉しくなっちゃう」
 ちなみに、この仕事で初めてAF(アナルファック)を経験したそうだ。
「最初は戸惑いましたけど、慣れると気持ち良くなってきました。圧迫された感じで苦しいのが、なんかイイんです。あと、その前の浣腸も恥ずかしいけど気持ちイイです」
 風俗で働く時間について、周囲には遊びに出ていると話しているらしい。
「両親と同居してるんですけど、まったく疑われてないですし、そんなに罪悪感はありません。あと、職場で店のプレイを思い出したりもするんですけど、ああ、早く店でプレイしたいなって、考えてますね」
 そんな彼女、SMの仕事はいつまで続けるつもりだろうか。
「この仕事はいつまでとは考えていません。だって、プレイを楽しんでますし、やめる理由がとくにないですから」〉

 取材時間はセミヌードの撮影も含めて三十分あまり。あくまでも店と彼女の宣伝が目的の原稿であるため、性的な行為に積極的な印象を抱かれるような発言を並べている。とはいえ、カギカッコのなかのコメントは、すべてカオル本人の口から出たものだった。
 だがじつは、この記事ではある事実を“封印”していた。
 当時二十二歳のカオルは処女だったのだ。

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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