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小野一光「限界風俗嬢」

お腹に三人目がいます……妊婦風俗で働くアヤカ

自分だけに辛く当たる父

「ではまずは、アヤカさんのご実家についての話から伺いたいんだけど……」
 部屋に入った私が切り出すと、彼女は「いいですよ。でも、私って自分の父について知らないんですよね」と口にした。驚く私を前に彼女はこともなげに語る。
「母が結婚せずに私を産んだんです。実父にも会ったことないし、父が違うとわかったのは二十歳を越えてから。結婚するときに戸籍が違うって気付いたんです」
 ソファーに横並びに腰かけた状態で、私はメモを取る。
 
 群馬県に住んでいたときに、父親だと思っていた男性は、彼女が三歳から二十歳まで実母と結婚していたが、男性の不倫が原因で離婚したという。現在、実母は新たな相手と再婚しているそうだ。
「私は三姉妹のいちばん上で、下に二人の妹がいるんですけど、妹たちはその父親の子供でした。だからでしょうけど、私だけ中学に入ったくらいの時期から、虐待を受けてたんです」
 思わずぎょっとした。すぐに思い浮かんだのが、性的な虐待だったからだ。しかしそのことを問うと、アヤカは首を横に振る。
「性的なことはありませんでした。ただ、妹たちとの間に明らかな差別があったんです。たとえば家族で出かけるときに、父から『お前、本当は連れて行きたくないんだからな』って言われたりとか……」
 その“父”は、ごく普通の会社員だったそうだ。
「田舎ですけど家を建ててましたから、ちゃんと収入はあったんだと思います。私も私立の中高一貫校に通ってましたし……。ただ、当時の私って太ってたんですね。それを家で馬鹿にされたり、邪魔者扱いされたりで、自律神経失調症になっちゃって、病院に通って薬を飲んだりしてました」

放浪とリスカの日々

 “父”のいる家に帰りたくないとの思いが、アヤカを“とある行動”に走らせた。
「中学二年くらいから、いろんな人の家を泊まり歩くようになったんです。初体験はそのとき。それ以降もいろんな人の家に行きました。友だちの友だちとか。もう、泊めてくれるのなら誰でもよかったんです」
 当然ながら、泊まり先を提供してくれた相手から、肉体関係を迫られることも少なくなかった。そのときは「しょうがない」と受け入れていたという。私は聞く。
「その時期に、特定の誰かだけって感じで、付き合った男性とかはいなかったの?」
「うーん、二十歳でできちゃった結婚をした前の夫までは、そういうのはないかな」
 つまり、彼女の中高生時代は、“行きずりの関係”ばかりが重なっていたということだ。それを語るアヤカの口調は落ち着いている。だが、当時の心中が決して穏やかでなかったことは、容易に見てとれた。というのも、彼女の手にリスカ(リストカット)の傷跡が残っているのに気付いたからだ。私が指摘すると、アヤカはすんなりと明かす。
「これは高校一年の前後に集中してつけた傷なんですけど、やってるときは、完全に無意識なんですよね。ボーッとしていて、気付いたら手に刃物があって、血が出てた、みたいな……。もう、カッター、ハサミ、カミソリとか、色々使ってました。親からは『なにやってんだ、お前!』って言われましたけど、『わかんない』と答えてました」
 つくづく思春期における“居場所”の大切さを感じてしまう。しかしその後もアヤカの予期せぬ人生は続く。

高校を卒業したアヤカが手に入れた居場所は、新たな苦しみを彼女にもたらし……。
次回は10月16日(金)公開予定です。

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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