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訪朝歴アリ! 作家・万城目学が観た『愛の不時着』 韓流ドラマにおける最強「壁」理論

作家・万城目学が、世の優れたエンターテインメント作品の数々を堪能し、そこから貪欲に「面白さ」のなんたるかを吸収すべく、精進する日々を綴る不定期連載エッセイ。 その独自の視点から語られるクセのあるエンタメ論(マキメトリックス)の先に、「万城目ワールド」と呼ばれる奇妙な作品世界をより堪能するカギが隠されている(かも)! 記念すべき第1回は、ロングヒット中のNetflix公開の韓国ドラマ『愛の不時着』を、「リアル北朝鮮を見た作家」として、前後編に分けてじっくり考察します。

 実は、私は北朝鮮を訪問したことがある。
 2011年11月のこと。
 なぜに小説家が北朝鮮を訪問したかというと、文芸誌「小説すばる」の編集長が、
「今度、ワールドカップ予選が平壌で開催されますが、万城目さん、ちょっくら行ってみませんか? それでもって訪朝エッセイを書く」
 という提案をくれたからである。
 それを聞いたとき、「北朝鮮か。ちょっと怖いな」と正直に思った。しかし、サッカーそのものは大好きであるし、何より謎の国家北朝鮮がどんなところか知りたい、という好奇心が勝り、この降って湧いたような仕事を引き受けた。
 ブラジルW杯を目指す、アジア3次予選の対北朝鮮戦。会場は平壌の金日成競技場。22年ぶりになる平壌での国際Aマッチを開催するにあたり、北朝鮮は150人の日本人サポーターの受け入れを表明した。すぐさま旅行会社が北京経由で平壌に向かう観戦ツアーの募集を始め、それに応募した。かくして、応援団の一員として私は平壌に潜りこみ、もちろん、生まれてはじめての北朝鮮、忘れがたき3泊4日の旅を体験したのである。
 
 そんな私が見た、ドラマ『愛の不時着』。
 話題は耳にするけれど、まだご覧になったことがない方もたくさんおられるだろうから、この前編ではネタバレなし。未見の方でも安心して読める内容に。ただし、後編では、遠慮のないネタバレを繰り広げつつ、忌憚なきドラマの感想を綴っていくつもりである。

『愛の不時着』の記者発表会見 左の二人が主演のヒョンビンとソン・イェジン  写真:Getty Images
『愛の不時着』の記者発表会見 左の二人が主演のヒョンビンとソン・イェジン  写真:Getty Images
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万城目学

まきめ・まなぶ
1976年大阪府出身。京都大学法学部卒業。化学繊維会社勤務を経て、2006年に『鴨川ホルモー』でデビュー。著書に小説『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『偉大なる、しゅららぼん』『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』『バベル九朔』『パーマネント神喜劇』『あの子とQ』、エッセイ『ザ・万歩計』『ザ・万遊記』『ザ・万字固め』『べらぼうくん』『万感のおもい』などがある。
2024年、『八月の御所グラウンド』で第170回直木賞を受賞。

撮影:ホンゴユウジ

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