よみタイ

小野一光「限界風俗嬢」

人妻風俗嬢が直面した、夫との「性の不一致」

「こうしてほしい」と言えなかった

「えっと、なんかね、私、実は、最初から、エッチに関しては、彼と付き合ってるときから、あんまり合わなかったのね、実は……」

 言葉を区切り、そのうえ「実は」を繰り返し使っての告白だった。私は問い返す。

「やり方が?」
「やり方が。で、それが言えなくて。で、我慢してたんだけど、で、彼は彼で気持ち良くさせようと、あの手この手でやったりしてたんだけど、それを私も最初は楽しんでたんだけど、やっぱりこの、違くって……」
「もうちょっと具体的に……」
「あのね、早かったんです。イクのが」
「いわゆる挿入してからが?」
「そうそう。早いからぁ、あーあって。前戯もあんまりだった」
「それってたとえばね、お店とかだと、プレイは前戯がメインだから、上手な人が現れるじゃん……」
「そう。それも知っちゃったが故に、だと思う。最初から、その、今のダンナさんとはね~。最初の頃、イヤって言ってるんです、私。こう、エッチでの来方が、私への迫り方が、ガバッていう感じだったから。ちょ、ちょっとは焦らしてよっていうのが、なんかあるじゃん。それがなかったから。私、イヤぁ、イヤぁって言ってて、で、なんかちょっと我慢する形でやってたんだよねえ~」
「なんで我慢しちゃったんだろうね」
「言えなかったし……。そのときは、こうしてほしいとか言うと、傷つけちゃうんだろうなっていうのがあったから。黙ってて……」
「お店では『こうしてほしい』って言うんでしょ?」
「言ってるし。むしろ言った方がいいっていうのはわかってきたのね、だんだん。でもプライベートでは言えなかった。で、どこのどういうところがイヤなのっていうのも、説明できなくて……。そこもね、レスに至った原因の一つですね」

 口調は軽いが、ハルカに先ほどまでの明るさはない。原因がはっきりわかっているから、しかもそこからの抜け出し方が見つけられないからこその、泥沼だ。もがいたり、諦めたりしながら、二人でずぶずぶと沈んでいく姿が目に浮かぶ。だがそんな彼女に向かって、私は再度同じ質問を投げかける。

「ほぼレスになったのは、同棲してどれくらい経ってから?」
「五年くらい経ってからかなあ。私がめっちゃ疲れてて、断ることが続いたじゃないですか。それで向こうが『イヤなんだろ』みたいになって、『そういうのもう一切求めないから』ってなって。で、私もなにも言えなくなっちゃって。どう説明していいのかわかんなくて、そのままにしちゃって。それから、こりゃまずいと思って、自分から迫ったりしたんだけど、あしらわれて……」
「でも、それからあとに結婚でしょ。どうしてかなあ?」
「……なんかね、私、正直ダンナと、ゴムつけないでやるというのは、抵抗があって……」
 
 質問した内容とはズレた答えで、しかも独白だ。だからこそ、邪魔はしたくない。

「最初から?」
「最初から。で、結婚する前くらいに、たまにやったときにそのままして来たんですね。私は中で出されるのがめっちゃイヤで、『え、ちょっと待って、出さないで』って思わず言っちゃったの。でもなんか、向こうはイッちゃって……。まず最初に、イヤぁ、子供できたらどうしよう、って思っちゃった。で、結局妊娠しなかったんですけど、ますますヤリたくないって思っちゃって……」
「けど、それから結婚したんだよねえ」
「情があったんだろうね~。本当にそれだけしかないっていう」
「結婚後にエッチってした?」
「うん、しましたよ。何回か」
「中出し?」
「された。別にそのときはイヤぁって言わなかったんだけど、ちょっとあんまり嬉しくなかった。ははは。ハアーッみたいになって」
「子供ができたら、どうしてたんだろうね?」
「いやー、私、その当時できたらね、堕ろしてたかもしれない。それくらいなんか、ちょっと……」
「ちょっと、なに?」
「……受け入れたくなかった。でも結婚してるんだよね。なんか、矛盾してるんだよね」
「たしかに、矛盾だよねえ」
「だから、ますますできなくなったよね。セックスに対する楽しさも知ってるし、自分が楽しめることだって知ってるから、よけいできない」

 自業自得との見方もあるかもしれないが、私はそうは思わない。ただそこにある、どうしようもできない現実、との捉え方だ。もちろん傍から見れば悲劇ではあるが、それならば夫婦関係を解消するという選択肢も残されている。決して逃げ道がないわけではない。実際、彼女に離婚を考えているかと問いかけたところ、「いまは考えてない」との答えが返ってきている。

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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