よみタイ

小野一光「限界風俗嬢」
過去の傷を薄めるため……。「してくれる」相手が欲しい……。
性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。

今回は、第1回から4回にわたり登場したSMクラブで働く女子大生、アヤメのその後をお届けします。

SMクラブをやめた女子大生に訪れた“精神の不調”

久しぶりのアヤメからの連絡

 二〇一九年四月十九日、アヤメから唐突にLINE(ライン)が入った。

〈最近お忙しいですか?〉

 たった一行のメッセージだ。彼女からは大学院に合格して、まだ学生生活が続くとの報告は受けていたが、それから間が空いての連絡である。簡素な文面だけに、却って引っかかりを覚えた。
 私は出張の予定が入っていたため、今週は難しいが、来週以降なら時間の都合がつくことを返信した。すると、今度は彼女に予定が入っているらしく、大丈夫なときにまた連絡してもらうことにして、その場のやりとりを終えた。
 
 だが、アヤメからの連絡は五月を過ぎ、六月になっても入らなかった。私自身も多忙なことにかまけて、彼女のことは頭の引き出しの奥に追いやっていた。
 やがて私からラインで連絡を入れたのは、七月八日のことだ。

〈元気ですか? ちょっと間が空いちゃったねえ。近況について話が聞ければと思うんだけど、近々時間とれないかなあ?〉

 すると一分後に返信があった。

〈元気かと言われると精神の方が調子良くはないですが、生きてはいます。いつにしますか? 予定空けますよ!〉

 そしてその三分後、彼女から次の文面が追加される。

〈お客様向けのコピペで恐縮ですが、今月のバイトは以下のような予定です。
【Freestyle Bar ××】(××は店名、以下同)
8日 月曜日 23時~LAST
14日 日曜日 23時~LAST
22日 月曜日 22時~LAST
29日 月曜日 22時~LAST
【××】
16日 火曜日 20時30分~
30日 火曜日 20時30分~〉

 その予定を見ると、週に一度の割合で深夜営業のバーに入り、二週に一度の割合でスナックで働いていることがわかった。私は彼女からバイトをしていると聞き、一年ほど前に一度だけそのスナックを訪ねたことがある。昔懐かしい昭和の香りが漂う、彼女以外は年配の落ち着いた女性ばかりが働く、品行方正な店だった。そこですぐに返信する。

〈ありがとう。不調も含めて話を聞くよ。今月は12、13、15、16が空いてます〉

 するとアヤメはすかさず返してきた。

〈12日19時30分以降なら空いてますよ!〉
 
 ではそれで決まりだ。私は新宿で20時の待ち合わせを提案し、〈メシでも食いましょう〉と付け加えた。
 アヤメからは〈承知しました! やったー! ご飯だw〉と初々しい言葉が届く。これで彼女と会う手筈が整った。
 彼女が語る“精神の不調”とは、どういうことなのか。それについては、直接本人の口から聞くほかない。

 取材当日、学校の授業が終わり、そのまま待ち合わせ場所にやってきたというアヤメは、セルフレームの眼鏡をかけて、柄物のワンピースという姿だった。教科書などの入った大きなリュックを背負っている。こうして会うのは、彼女が働くスナックを訪ねたとき以来だが、外見の印象は変わらない。ひとまず二人で居酒屋に入る。

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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