よみタイ

小野一光「限界風俗嬢」
過去の傷を薄めるため……。「してくれる」相手が欲しい……。
性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。

連載第11回目は、ハルカの風俗デビューが語られます。

もうちょっと稼ぎたい――若いヘルス嬢が選んだ「ステップアップ」

ホストの彼からヘルスの面接をすすめられたハルカは……

「そのときって、どういう気持ち?」
「わかんない。なにがなんだかわかんなくてぇ、そこでなにをやればいいのかもわかんなくてぇ」
「だけど、勤めたらわかるじゃん。知らない人とのエッチがあるわけだから……」
「最初はワァ~って感じで、でも、無我夢中で、なんか、最初の店では口頭で仕事内容を説明されただけだったんですね。で、ええっ! と思って……」
 
 新宿にある店舗型のヘルスだったという。当然ながら、本番行為を除く、肉体を使った裸での接客がある店だ。私はさらに追及する。

「そのとき、なんでやめたり、逃げようとはしなかったの?」
「なんかね、ほら、日払いでおカネくれるじゃないですか。それがすごい、何万とかくれるから、えっ! とびっくりしちゃって……。だって、そうすれば彼のところにも行けるじゃないですか。それがあったから、そのまま働いて、やめなかったんだよね」
 
 本人にとっては“愛する彼のため”という意識の、疑問を挟む余地のない行動に赴いていたのである。

「でもさ、ふつう自分が付き合ってる相手にそれって、おかしいんじゃないのって思ったりしなかった?」
「する~」
「でも当時は、そうじゃなかったんだ」
「全然そうじゃなかった。なんでだろう~。なにも考えずに呑み込んでた。はははっ」

 半ば織り込み済みの回答だった。そういうこともあり得る、ということは私もこれまでの取材経験上知っている。

「ちなみにハルカさん、その時点での男性経験ってどれくらい?」
「全然少なかった。十人いないくらいですよ」
「ちゃんと付き合ったのは彼が初めて?」
「ちゃんと、はそうですね。付き合うはちょこちょこあったけど、ほんと短かったから」
「当時、エッチでイクっていうことは経験してた?」
「エッチではイケてなかった。でも、すごく興味はあったんです。彼とするのは好きだったし、彼としてから、自分からもしたいことを言ってもいいんだって知って、それからはもういろいろ知ってみたかったし、セックスでイクは知らなかったけど、どんな感じなんだろうって、興味があった」
「イケるなら彼以外でもよかった?」
「いやいやいや、そのときは彼に一途だったし、彼以外は絶対にイヤだった」
「だけど、彼の店に行くためには仕方ない、と」
「そう。で、働いてた……」
 
 たぶん、この心理について尋ねると、男性の多くは理解できない。だが、女性ならば半数以上が理解できると答えることだろう。それほどに“性差”で理解が分かれる行動だ。

「当時、稼ぎってどれくらいだったの?」
「あのときは、じつは月にマックス二百(万円)いったことがある」
「そのときは二十一、二歳だよねえ」
「そう。で、働けたしね。週五とか。だいたい遅番で午後五時から十二時まで働いてた」
「店が終わって、彼の店に行くのは増えた?」
「増えた増えた」
「遣うおカネも増えた?」
「そのときで一回あたり三万円くらい」
「なにか自分のなかで意識は変わった?」
「ホストに行ってもおカネがあるから、なにかもっと高いボトル入れたいなって欲が出てきちゃって……。でもそれを彼とか私たちのことを知ってる後輩が必死に止めるの。たとえば彼のお誕生日とかは五万円くらいの高いのを入れたけど、他の女の人はもっと高いのを入れるのね。で、私も入れられるのにって思いながら……はははは」
「そんなに高いボトルを入れたくなるんだ」
「喜ばせたいって思ってて。で、それが喜ぶことだと思ってたの。勘違いしちゃって」

 家で彼と同棲しているにもかかわらず、店に行くとそういう気持ちになってしまう。まさにホストクラブあるあるだ。

「家で彼とセックスはしてた?」
「えーっ、してたよ。ふつうにしてた。いや、けっこう多かった。ははは……」
「で、彼とのセックスと、その後の店でのプレイは全然違うんでしょ」
「別物。こっちがあるから、そっちは事務的に。こっちが満たされてるから、そっちでも働ける、みたいな。ほんとに、こっちに集中してたから、そっち……店は、ほんとにおカネを貰うためでしかなかった」

 ここで私は、風俗での仕事を始めたハルカの周辺について、話題を向けることにした。

「その時期って、実家とはどういう付き合いで、なんと説明してたの?」
「実家にはたまに帰ってましたよ。でも、仕事については派遣の仕事をしてるって説明してました」
「罪悪感とかってあった?」
「ちょっとはあったんだけど、あんまりなんか……麻痺してましたね。ただ、元からの友だちとかに、仕事のことで嘘をつくのはキツかったかな。それに、彼氏がホストっていうのも、なかなか言えなかった。一緒にホストクラブに行ってた先輩とか、そのまわりの友だちは、彼氏がホストというのは知ってて、ホストだけど、彼はちゃんとしてるよねって思ってくれてたみたい……」
「風俗での仕事については?」
「それは言えなかった。さすがにそれは無理。でも、わかってたんじゃないかなあ~。そのとき私、お客さんにロレックスを貰ったんですよ。バブルな時代だから。で、それをしたくてしょうがなくて、しちゃってたから……。派遣の給料とかで買えるわけないから、なんかおかしいとは思ったと思う」
 
 ハルカは初めて飛び込んだヘルスで二年間働き、一旦退いたという。その理由は……。

「えっとねえ、体力的にキツかったんだよね。いやもう、耐えられないなと思って……。なんか、お客さんを相手にするのがイヤだってのが、本当にごまかしきれなくて……。本当にイヤだってのが顔や態度に出始めちゃってたから、ちょっとこれはマズイなと思って、上がることにしたんです」
 
 やはり望まない風俗での仕事は、見えないところで彼女の心身への負担となっていたのである。だが、若いというのは回復も早い。元気を取り戻した彼女は次の行動に出る。

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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