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小野一光「限界風俗嬢」
過去の傷を薄めるため……。「してくれる」相手が欲しい……。
性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。

連載第10回目は、夫とのセックスレスを理由に風俗で働く人妻・ハルカが、性的に「開花」した東京でのバスガイド時代を振り返ります。

上京したての19歳バスガイドがハマったホストの世界

45歳のハルカが振り返る10代

「家族って両親のほかに兄弟は?」
「九歳下の弟が一人」
「お父さんの職業って?」
「建設業。主に設計とかをやってて、たとえば××とか……」

 そこで彼女は、とある地域の火力発電所の名を挙げた。そのことから、大手建設会社に勤務していることがわかる。

「お母さんは?」
「母はいまはパートですね。昔は生保レディとか食べ物屋さんで働いたりとか……。うち、両親がなんか家にいなかったんですよ。両方働きに出てるから。あと、父の仕事の関係で引っ越しもけっこうあったので、まわりに知ってる人がいないところに住むと、私は家で一人で過ごしてることが多かったですね。弟が生まれてからしばらくは、さすがに母は家にいたけど、父はずっと家にいなかった。それこそ土・日もいない。ははは……」
「それはつまり、お父さんの仕事が忙しすぎるとか、そういうわけじゃなくて、ご両親の夫婦仲が悪かったってこと?」
「仲は良くなかったですね。子供ながらに仮面夫婦だなと思ってて……。いまは別居してます。まあ、籍は抜いてないんだけど」
 
 中学時代のハルカは、与えられていた自分の部屋にこもっては、絵を描いたり、少女漫画を読んだりして過ごしていたという。

「漫画家になりたいと思ってましたね。もしくはケーキ屋さんとか」
「恋愛とかは?」
「学校で好きな子はいるけど、とくになんらかの行動に移すわけではないっていうか。まあ、奥手でしたね」

 関東地方の某県に住んでいた彼女は、県立高校の商業科に進学する。

「女子が多い学校で、女子クラスもありました。でも私は、三年間共学クラス。なんか女子クラスは嫌だったので、選択科目を共学クラスになりやすいよう選んでました」

 異性に対する興味はあったというが、高校時代は飲食系のバイトばかりしていたそうだ。それには家庭内の事情が関係していたという。

「あまりお小遣いを貰ってなかったんです。まあこれは後日談として母から聞いたんですけど、父は給料がすごく良かったらしいんですけど、たぶん外に女がいて、カードの請求がすごく来てたって。それでうちにはいつもおカネがない状態で、私自身、金銭面では我慢したことが多かったと思う」

 大学進学も、家の経済的なことが理由で断念したと語る。

「美術系の大学に行きたかったんですけど、ああ、うちは無理だなって……。それで就職して、みたいな……」
「高校時代に恋愛とかはなかったの?」
「……あった!」
 
 急に記憶が喚起されたのか、やや大きな声を上げた。

「三年のときに年下の子を好きになって、あ、向こうは一学年下です。で、告ったんですよ。そしたらOKを貰って、お付き合いをすることになりましたね」
「初キスは?」
 
 当然その彼が相手だと思った私は尋ねる。

「十八。でもその彼じゃないの。彼とはプラトニックなの。年下なんで、私から手を繋ぐとかしてたから……」
「つまり、年下である向こうからは言い出せなかった、と」
「そうなの」
「キスやセックスは高校を卒業してから?」
「そう」
 
 高校を卒業したハルカが職業として選んだのは、東京でのバスガイドだった。その話を聞き、なるほどと思った。たしかに彼女の明るい雰囲気でバスガイドというのも、想像できなくはない。

「とにかく東京に住みたかったというのと、家を出たかったの。それで、住み込みという条件で仕事を探したのね。いくつかあったなかで、楽しそうだと思えたのがそれだった」

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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