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小野一光「限界風俗嬢」

人気風俗嬢に上りつめた女子大生が抱えた「心の渇き」

『死にたい』じゃなくて『あ、死の』って思った

 私は辛うじて言葉を継いだ。
「ところでその後、義父とは家のなかでどういう関係にあるの?」

「私が母にすべてを話してしばらくしてから、義父から『お前の人生をめちゃくちゃにしちゃったよ』と謝られました。ただ、それを聞いて怒りとか、許せないとか、そんな感じはなかったですね。なんの感情もなかった。もうなにを言っても仕方ないんで。自分は前に向かって進んでるんで。それで……」

「それで?」

「なんか不思議なんですよね。結局いまも家族全員で住んでるんですけど、ある意味、義父が家族のなかでいちばん話しやすいかもって感じるんですよ」

 それは、理解できないようでいて、理解できる話だった。
 母親は、自分が親であることをなかば放棄して、女としてリカと向き合っている。そこに生まれるのは、同性に向けた敵意であり嫉妬心だったりする。たとえ血の繋がりがあったとしても、そうした相手に心を開くことは容易ではない。
 一方で義父は、父親という立場ではあるが、血の繋がりのない男である。もちろん、越えてはいけない一線を越えて来た、モラルに欠けた存在ではあるが、それでも長年にわたって肉体の繋がりを持ってしまった異性なのである。リカのなかで、ある意味自分を通り過ぎた男に対するような、気楽さが生まれることは不思議なことではない。
 だが、そうだからといって、すべてが円満に着地できるかどうかは疑わしい。先にも触れたとおり、リカの傷は一応ふさがったように見えたとしても、傷痕が完全に消えることはないからだ。
 インタビューを終え、部屋をあとにしようとしたとき、彼女はふいに思い出したことを口にした。

「そういえば去年の十一月三十日の夜に、人生最大の未遂をしたんです。手元にあった薬を全部飲んじゃって、三十五時間昏睡して、それから一回目覚めて、風呂に入って、それからまた四十八時間眠ってました」

 そのときは、これまでとはまったく違う感情の振れ方で実行していたと語る。

「いつもは『死にたい』なんです。だけど、あのときだけは『あ、死の』と思って、いつの間にかそうしてたんですよね」

 口調そのものは無邪気だ。だからこそ不穏な空気を感じてしまう。おぼろげにゆらゆらと揺れるリカに目を向けながら、彼女にとって太陽となるような、そんな出会いが生まれることを、心の底から望んでいた。

次回は、ハッピーオーラ全開の人妻風俗嬢・ハルカさんの登場です。
「歌舞伎町で働く理系女子大生リカ」第1回はこちらからどうぞ。

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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