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小野一光「限界風俗嬢」
過去の傷を薄めるため……。「してくれる」相手が欲しい……。
性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。

前回までで明らかになった、リカが中学生の頃から受けていた義父による性暴力。
大学生になったリカは風俗で働き始めると、見事に人気風俗嬢に。しかし彼女の心は虚無に侵されて……。

人気風俗嬢に上りつめた女子大生が抱えた「心の渇き」

おカネがあっても虚無感しかない

「もう、大学に入ってからは歌舞伎(町)に入り浸りですよ。十九歳になるちょっと前から、おカネおカネで、渋谷のホテヘルで勤めるようになりました。もう、見事に売れましたね。渋谷の風俗サイトで常時トップテンに入っていて、一日三、四時間くらいで、月に七十万から八十万円くらいになりました。そのときはAF(アナルファック)以外は全部オッケーにしています。なにも考えてないですし、おカネが入ればいいや、だけ。完全に病んでましたね。無意識のうちに車の前に出たり、自転車の前に出てたりしてたし……」
 
 そんな、夢遊病者のような日々が数カ月続いたという。

「あるときふと、おカネがあっても虚無感しかないことに気付いて、風俗については『やめます』ってなりました。そのときに、やっぱりやるなら水商売の方がいいやって思ったんです。ていうのも、風俗ってある程度の見栄えがあって、向こうにとって気持ち良くなれればいいって世界じゃないですか。だけど、水商売って顔だけじゃやっていけないんですよ。飲めなきゃ、喋れなきゃやっていけない。自分の人間性が判断されるんですね。私としてはそっちの方がよかったんで、シフトすることにしました」
 
 同じ承認欲求であっても、相手から顔や肉体だけを求められることに抵抗があったのだろう。そうした性的な要素をすべて排除して、自分の中身を見て欲しい、自分の中身を求めて欲しい、とのリカの心の叫びが聞こえる。それはどこか“渇き”に近い。

「そうしてキャバ嬢をやりながら、ビジュアル系のバンドマンとかホストと付き合うようになったんです。私、一対一の関係が成り立つのは、親子とか恋人しかないと思ってるんですね。だけど私には親子という選択肢がなかった。それですぐに恋人を求めちゃうんです。そういう人がいなくなったら、自分がいなくなっちゃう。だから次々と。ほんと、これって自分のなかの防御ですね」

 しかも、付き合う相手はホストならば売れっ子、ビジュアル系バンドマンならば活躍していること、という条件が付くそうだ。

「ステータスがあり、顔が良くて、その上で自分を見てくれる人だけを求めてます。なぜなら、プライドだけが自分を守るから。自分がこんな人に求められる、愛されるがないと、やっていけないから。ほんと、生きていけないと思うから……」

 彼女の傷は、生半可な深さではない。だがそこに、私が薄っぺらな言葉をかけてもなんら意味を成さない。それがわかるから、私はただ話を聞く。
 眼下に目をやる。歌舞伎町中央通りを蟻のように歩く人々のなかに、どれほどの物語が秘められているのだろうか。誰しもがなんらかの爆弾を抱えていることを想像するだけで、空恐ろしくなる。

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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