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篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」
認知症の母を介護しながら二十年。ようやく母が施設へ入所し、一息つけると思いきや――今度は自分が乳がんに!?
介護と執筆の合間に、治療法リサーチに病院選び……落ちこんでる暇なんてない!
直木賞作家・篠田節子が持ち前の観察眼と取材魂で綴る、闘病ドキュメント。

前回まではこちら→https://yomitai.jp/series/gangakita/

「ホーム巡礼 八王子十四ヵ所」 その2

介護のうしろから「がん」が来た! 第41回

 ケアマネージャーさんに紹介してもらったところだけでは心許ないので、自分でもネットで探す。こちらは仲介業者が作ったサイトがほとんどで、見学を申し込むと仲介会社の営業の人がそれぞれの施設に連絡を入れて一緒に回ってくれる。ところがこちらと営業マンと施設の担当者の三者の予定が合う日程を探すのがなかなか面倒だ。さらには空きベッドが無いという理由から、入居一時金が八桁とか、月額費用が三十万を超える有料老人ホームにたくみに誘導されそうになり、慌てて逃げた。

 そんな頃、一昨年の夏に母を連れて見学させてもらったDを思い出した。例によって「トイレ貸してください」と言って入れてもらったところだが、民間アパートのような小ぎれいだが安普請の建物で、フロア全体に活気があった。ダイニングに入り入居者の方々に挨拶すると、その一人が自分の隣を空けて、すぐに母を座らせてくれた。介護士や施設長と入居者の間でひっきりなしに会話が交わされているのも、安心できる雰囲気だった。
 確か、そのときに登録したはずだが、と再度訪れスタッフに尋ねてみると、確かに名前があり、そのまま待機の列についていた。つまり二年、三年待っても入れない、ということだ。
 帰りがけに、そこの玄関に市で発行している介護関連事業者リストという薄い電話帳のようなものを発見した。そこに市内にあるグループホームの一覧表が載っている。

 ネットだと仲介業者ごとのものがほとんどで、情報自体が限られていたが、そちらの冊子で、ようやく市内にある施設すべてについて把握することができた。
 施設を探している家族の方々の多くは、ケアマネージャーさんかネットの仲介業者の方からの情報を頼りにされていると思うが、おそらくどこの区市町村でもこの手のリストは発行していると思う。非常に頼りになる一冊なので、取りあえず役所の窓口で問い合わせてみたらいかがだろうか。

 その冊子に掲載されている八王子市内の認知症対応型グループホームは14ヵ所。
 待機の列が長いということはわかったので、こうなればブルドーザー方式で、いくつかの例外を除き、リストを潰していくことにする。
 
 Dの近くにあるEは印象的なところだった。広めの民家といった二階家で、D同様に活気がある。フロア全体が雑然としていて、床には一枚、肌着が落ちていた。おじいさんが一人、何かぶつぶつつぶやき柱に頭をこすりつけているところで、施設長が何か冗談を言って応対している。
「他でだめだった人でも、うちに来れば大丈夫なのよ。お金ないから良い建物じゃないけど」
 施設長の女性の豪快な口調と笑顔が印象的だ。だがここも以前に一度訪れており登録はしたが、相変わらず待機のままだ。

 

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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