よみタイ

篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」
認知症の母を介護しながら二十年。ようやく母が施設へ入所し、一息つけると思いきや――今度は自分が乳がんに!?
介護と執筆の合間に、治療法リサーチに病院選び……落ちこんでる暇なんてない!
直木賞作家・篠田節子が持ち前の観察眼と取材魂で綴る、闘病ドキュメント。

前回まではこちら→https://yomitai.jp/series/gangakita/

「施設もデイサービスもショートステイも、絶対拒否!」な家族を抱えた介護者のために――介護老人保健施設入所の経緯 1

介護のうしろから「がん」が来た! 第38回

 薬を使っておとなしくしてもらっているとはいえ、いつまでも母を老健に置いてはおけない。
「こちらもお預かりしている責任はあります。すぐにとは申しません」とフロア担当の看護師さんは言ってくださるが、すぐに、ではなくとも、早急に別の施設、老健のように入所期限が原則三ヵ月といった縛りのないところを探さなければならない。
 もし見つからなかったら、また見つかったとしても入居を断られたり、退去を要請されたりする事態になったら、いよいよ私の仕事部屋を使っての二四時間介護が始まる。

 思い起こせば一年と二ヵ月、母を老健で看てもらえたお陰で、なんと楽をさせてもらったことか。
 この一年二ヵ月の間に、私自身の検査ができ、がんが発見され、治療ができた。
 それが無かったら、今頃、こんなエッセイは書いていない。身体からのサインに気づいたとしても、やばいな、と思いながら放置して取り返しのつかないことになっていただろう。世の中の介護者の多くがそうであるように。
 デイサービスもショートステイも他の介護サービスも、本人が頑強に拒否するために使えない、家族の心身の疲労が限界を超えている、という方々には参考になるかもしれないので、ここで母の老健入所の経緯を詳しく書いておこう。

 一昨年の11月のこと、身体に関しては極めて頑健な母がお腹の張りを訴えた。
 よくあることだった。認知症で満腹感がなくなり驚くほど食べる。誰かが昼夜そばにいて厳しく管理すれば別だが、自分で小銭入りの財布を持っており、台所には大きな冷蔵庫もある。
「食うな、食うな、とばかり。あんたといたら、あたしは餓え死にする。いつもこんなにお腹を空かせているのに」と四六時中叫ばれながら何とかやってきた。それでも気を抜くと、深夜、明け方に腹痛を訴えて、救急車を呼んだりタクシーで病院に乗り付けるといったことを何度か繰り返していた。
 ただその日は昼間でもあり、かかりつけ病院に行った。

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

週間ランキング 今読まれているホットな記事