よみタイ

篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」
認知症の母を介護しながら二十年。ようやく母が施設へ入所し、一息つけると思いきや――今度は自分が乳がんに!?
介護と執筆の合間に、治療法リサーチに病院選び……落ちこんでる暇なんてない!
直木賞作家・篠田節子が持ち前の観察眼と取材魂で綴る、闘病ドキュメント。

前回まではこちら→https://yomitai.jp/series/gangakita/

認知症のクスリとリスク

介護のうしろから「がん」が来た! 第37回

 認知症の高齢者を向精神薬によって落ち着かせることについては、メディアを通じ専門家や識者の間で批判が多い。
 実際に介護に携わったことのない方、穏やかなボケ方をしてくれた家族を介護したご経験のある方は、それに同調される。
 だが、実際は介護者の対応の仕方ではカバーしきれないケースもある(脳が過剰な興奮をおこしているのだから、お腹をこわしたのを、気の持ちようで治せと言ってるのと同じ)。
 
 逡巡することなく私が薬の使用について承諾したのは、以前、友人のお母様がやはり施設で向精神薬を使ったという話を聞いていたからだ。
 彼は脳梗塞と骨粗鬆症こつそしょうしょうでまったく寝たきりになった母上を家族五人で在宅介護していたが、ついに限界が来て、かなりの裏技というか、荒技を使い、嫌がる本人を有料老人ホームに入れた。 
 やはり興奮したり、攻撃的であったりしたために向精神薬を処方されたとのことだが、彼とメールでやりとりし、また直接、会って話を聞いた限りでは、メディアで流されている「飲む拘束衣」のような状態ではまったくなく、格別の副作用もなかったらしい(処方される薬の種類、処方の仕方などによるのだろう)。
 また施設入所はもう一つの大きな効果をもたらした。まったく動けない、リハビリする気も無い、手洗いに行くのに介助しようとすれば自分の足を床に下ろすこともなく、全体重を介護者にかけてぶら下がり、腰痛を起こさせていたお母様が、自分で立って一人で手洗いに行けるまでに回復した。これもまた、若い機能訓練士のおにいちゃんの指導と、本人のやる気と努力のたまものだった(偉そうな顔をした中高年の息子なんかより、溌剌はつらつ、優しい、体育会系男子がいいに決まってる)。
 
 それはともかく、この彼からだけでなく有用な情報のほとんどを、私は同年代の友人からもらっている。
「うちはこんな感じ。あんたのとこ、どうよ?」というやりとりからもたらされる回答は、なまじ公的機関が絡まないだけ幅がある。ウケと話題性、感動を狙ったメディア情報やネット情報に共感する前に、仲間内で互いに現在進行形の情報を開示し合うことで、(ここでは書けないような)より現実的で具体的な方法にたどり着けるだろう。

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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