よみタイ

がんの後ろから何が来る?

認知症の母を介護しながら二十年。ようやく母が施設へ入所し、一息つけると思いきや――今度は自分が乳がんに!? 介護と執筆の合間に、治療法リサーチに病院選び……落ちこんでる暇なんてない! 直木賞作家・篠田節子が持ち前の観察眼と取材魂で綴る、闘病ドキュメント。 前回まではこちら→https://yomitai.jp/series/gangakita/

介護のうしろから「がん」が来た! 第36回

 一月下旬に形成外科の再診処置があり、暮れの酒解禁に続き、運動の方も解禁となった。
 スイミングクラブに電話をかけて二月からの復帰を告げ、これですべて元通りとVサインなど出していたら……。
 母の入所している老健(介護老人保健施設)から電話がかかってきた。
「お母様のことでお話ししたいことがございます」
 来た。
 老健は老人ホームではない。病院と自宅の中間的な役割を担い、在宅復帰を前提としたリハビリを行うところだ。そうした趣旨からして入所可能な期間も3カ月からせいぜい一年程度。3カ月ごとに判定が行われ、家に戻れると判断されれば退所しなければならない、という建前だが……。

 友人知人の親が入居している他の老健では、一年をゆうに超えてもそのまま居る。看取りまでしてもらったところもある(老健は在宅復帰を目標とする施設で、原則看取りはしないが、ほとんどのところは病院に併設されているため、病気が悪化した場合にはそちらの病棟に移り、小康状態になると老健に戻るという形で看取ることもある)。
 また以前、母が急性期病院から転院を勧められた別の病院が経営していた老健では、個室に入ればいつまで居てもかまわない、と耳打ちされた(病棟の方は閉鎖型精神病棟のため、同じ敷地内にある老健を勧められた)。
 ただし費用は介護保険を使って月60万から70万。考えただけでめまいがして私の方が逃げ出し、完治しないまま、自宅介護となった。

 現在、母が入所している老健には個室がなく、たまたまそのとき空いていた二人部屋に入れてもらっている。差額ベッド代を入れて月額20万円。これで一年を超えても置いてもらえるかどうかは微妙なところだったのだが、家族の病気という事情も考慮していただき、お目こぼしにあずかっていたのかもしれない。

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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