よみタイ

篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」
認知症の母を介護しながら二十年。ようやく母が施設へ入所し、一息つけると思いきや――今度は自分が乳がんに!?
介護と執筆の合間に、治療法リサーチに病院選び……落ちこんでる暇なんてない!
直木賞作家・篠田節子が持ち前の観察眼と取材魂で綴る、闘病ドキュメント。

前回まではこちら→https://yomitai.jp/series/gangakita/

日本製のブラはなぜ苦しい?

介護のうしろから「がん」が来た! 第32回

 シャワーにかぶれ止めに皮膜剤、いろいろやって楽にはなったが、それでもまだテーピングはかゆい。手術の傷痕部分は皮膚の感覚が鈍くなっていてあまり感じないが、シリコンを持ち上げるために、脇から乳房の下部を通って胸の谷間にかけて貼ったところが問題だ。かゆいからと外せば中身のシリコンがずり落ちる。その感覚は実にはっきりしていて、何とも気持ちが悪い。
 加齢でバストが垂れるのとはまったく違う。本体がずりずり、と落ちる。座っているとバストの下部が腹に着くような気がして、気が滅入る。
 やれやれとテープで持ち上げ、GUのかぶりタイプのノンワイヤーブラで押さえる。

 そんなことをしながら、はたと気づいた。ずり落ち防止ならもっと効果的な方法があるじゃないか?
 ワイヤー入りブラだ。元々が下垂防止のためにあるものだし、まさにうってつけでは? ところが手引き書の類では、乳がん手術や再建手術をした人に薦められているのは、ブラトップやカップ付きインナーだ。ワイヤーはだめよ、と注意書きもある。
 
 それでも、と試しに手持ちのワイヤー入りブラを着けてみた。
 おおっ。すこぶる具合が良い。中のシリコンがワイヤーにしっかり捕まっている感じがする。これならテーピングなど無用なのではないか。

 通販で買ったイタリア製の安物ブラは、ワイヤー入りだが、パッドは入っていない。カップ部分も含めまったくのぺなぺなで補正力はゼロだ。なので、「ヒン」は「ヒン」のまま、「巨」に見せることはできないが、着けていて信じがたく楽なので私は以前からこのタイプを愛用している。日本では売っていないので、海外(欧米)に出かけたときに、スーパーマーケットや市場で仕入れていたのだが(なぜか高級店には無い)、最近はネット通販で簡単に手に入るようになった。
 
 暮れも押し詰まった頃、その年最後の外来受診の折に、形成のN先生に「こんなブラなんだけど、どうでしょう」と、着けているのを見てもらった。
「ああ、いいですね。中に入れたシリコンよりワイヤーが小さくて食い込むと困るのですが、そうでなければOK」とのこと。
「大丈夫です。輸入物なので」
「日本のブラってきついんですよね」
 まさにその通り。

 

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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