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藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」
バツイチ、シングル子なし、女40代、フリーランス。
編集者、ライターとして、公私ともに忙しく過ごしてきた。
それは楽しく刺激の多い日々……充実した毎日だと思う。
しかし。
このまま隣室との交流も薄い都会のマンションで、
これから私はどう生きるのか、そして、どう死ぬのか。
今の自分に必要なのは、地域コミュニティなのではないか……。
東京生まれ東京育ちが地方移住を思い立ち、鹿児島へ。
女の後半人生を掘り下げる、移住体験実録進行エッセイ。

男はいなくても家がある。43歳のバースデー

天にまします我らの父よ。願わくは御名をあがめさせたまえ。

 仕事が立て込んで、契約日をいつにするか考えあぐねていましたが、たまたま兄が鹿児島で仕事があるというので、そのタイミングに合わせて私も鹿児島入りすることにしました。免許取得後に初めて運転するにあたって東京は恐ろしく、最初に助手席に乗せるのが身内というのは何とも湿っぽい話ですが、ちょうどおあつらえ向きの相手なのでした。死なせたらごめんよ、お兄ちゃん。
 仕事をどうにかこうにかして鹿児島へ行ける日程を久保さんに伝えると、司法書士さんの都合を調整してくれて、「契約を8日にしましょう」と連絡がありました。その日は奇しくも私の誕生日。やはり、運命のようなものを感じずにはいられません。

 鹿児島市内に住む親戚に、兄と共に改めて父の死を報告し、せっかくだからとクリスチャンである親戚に伴って教会のミサに出席しました。
 私は小さい頃、クラスの友達に誘われて近所のプロテスタント教会の聖歌隊に所属していました。日曜日は午前中に牧師の話を聞いて、午後は聖歌隊の練習。夏はサマーキャンプという名の合宿をして、クリスマスはガウンを着て参列客の前で讃美歌を歌いました。
 他の子たちは多くが親の影響で既に洗礼を受けていて、聖歌隊に所属して数年が経ったころ、牧師から洗礼を受けないかと声を掛けられました。
 洗礼を受けるとできなくなることはあるのか尋ねたところ「お寺や神社に行ってはダメ」だと言われました。私が知っている神様はそんなに心が狭くないのに、なぜ。
 それがちょうど塾に通い始めた頃と重なって、これを機に私の足は教会から少しずつ遠ざかっていきました。
 ところが今度は母が興味を持ちだして聖書を読み始め、最終的に顔中に腫瘍を携えながらカトリックの教会で洗礼を受け、その数か月後に天国へと旅立っていきました。遺骨は藤原家のお墓に半分、残りの半分は四谷にあるイグナチオ教会に眠っています。
 母の闘病中、聖書の勉強会を開いていたシスターが病室で祈りを捧げてくれて、母が亡くなった後は母の遺志を継ぐように父が勉強会に参加するようになりました。父が洗礼を受けることはありませんでしたが、葬儀はそのシスターにお願いしてキリスト教式で行いました。
 そんなこんなで、私にとってキリスト教のミサはなじみ深く、三浦綾子の『道ありき』に影響されて洗礼を受けた親戚からの誘いも、私たちにとっては日常の一コマなのでした。
 誰かしらに怒られそうですが、教会でも神社でも寺院でもモスクでも私がやることは一緒。温かく厳かな空気が流れるこじんまりとした教会で、父を思って祈りを捧げました。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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