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藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」
バツイチ、シングル子なし、女40代、フリーランス。
編集者、ライターとして、公私ともに忙しく過ごしてきた。
それは楽しく刺激の多い日々……充実した毎日だと思う。
しかし。
このまま隣室との交流も薄い都会のマンションで、
これから私はどう生きるのか、そして、どう死ぬのか。
今の自分に必要なのは、地域コミュニティなのではないか……。
東京生まれ東京育ちが地方移住を思い立ち、鹿児島へ。
女の後半人生を掘り下げる、移住体験実録進行エッセイ。

若者9人、おばさんひとり。42歳の合宿免許

このマンションが好きだから売らないという選択

 家を買うと思い立ったが吉日、不動産屋の久保さんに連絡を入れて、内見した家を購入する意思を伝えました。そして、鹿児島を発つ日に、空港で売買契約書と奄美大島産の黒糖を受け取りました。
 会社を辞めると決めたときもそうでしたが、一度決意を固めてしまうと、すっかりモヤモヤは晴れて、視界がクリアになりました。そして、父が亡くなった時と同じように、突然目の前にやらなければならないことがわらわらと現れました。
 ローンの申請や免許の取得、今住んでいるマンションをどうするか。
 まだまだ住もうと思っていた目黒のマンションは、自分の巣を作るつもりで壁紙を貼り替えたり、本棚や机を部屋の形状に合わせて作ったりと、もうすっかり愛着が湧いていました。ここを売ってくれたおばあちゃんは私が買うことを望んでくれたのに、たった数年で売り払うのは、彼女の気持ちを踏みにじるような気がします。
「築50年」「今は売り時」という機械的な声を振り払い、もうその手の価値観では生きないと決めて、この家を気に入ってくれる誰かに貸すことに決めました。いろいろといじってしまった分、ここがいいと思ってくれる人じゃないと、そもそもこの家を選ばない気がしました。
 そして、下の階に住んでいたときの家賃を考えれば、十分ローンは支払えるし、家賃をすべて返済に回せば、完済も早まります。マンションは古いけど、管理会社はしっかりしているし、修繕積立金もある。なにとぞなにとぞ。
 一方、鹿児島の家は、親戚に連絡を入れて銀行に話を通してもらい、担当者と遠隔でやり取りすることになりました。
 親戚の口添えがあったため、恐らく大丈夫だろうとは言われていましたが、案の定、審査には時間がかかりました。働けど働けど信用は得られず。フリーランスの世知辛さです。

 審査を待っている間に、合宿免許の日程が迫ってきました。久保さんにまだ審査の結果が出ないことを伝えると、合宿で宮崎に来るのであれば、ついでにリフォーム業者さんを紹介してくれるというのでお願いすることにしました。
 システムを作ったもん勝ちの見積もりサイトには加担せず、この繋がりを大事にしたほうがいい気がしました。誰にも中抜きさせず、霧島にお金を落とすのだ。
 2週間分の荷物をトランクに詰め込んで、2ヶ月も経たずして再び鹿児島へ向かいました。こうも往復していると、鹿児島との行き来にもいい加減慣れてきて、それが自分にとってそこまで苦ではないことがわかりました。きっと、車の運転ができたら尚のこと。
 まだ本審査が通ったわけではないのに、売主さんの許可を得て、久保さんと霧島の家に向かいました。自らも現場に立つという筋肉隆々の建築設計事務所の代表に、動線なんて知ったこっちゃない一軒家ワンルーム計画を伝え、ベースとなる見積もりを取ってもらうことにしました。新たな巣づくりの開始です。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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