よみタイ

美容初心者おじさんからご報告。私、化粧水のおかげで結婚することができました!

 この連載を執筆するにあたって心がけてきたことはひとつだけ。それは美容と健康のハードルをできるだけ下げたいということだ。おカネがかかる、時間がかかる、面倒臭い、今さら美容なんて恥ずかしいといったことで一歩を踏み出せない人たちが、こんなおじさんにもできるんだから、私もやってみようかな……と化粧水を手に取ってくれたら、これほどうれしいことはない。

 ちょっとだけ丁寧に顔を洗うだけで気持ちがスッキリします。顔を洗った後に化粧水をつけるだけでもいいんです。寝る前にシートマスクをするだけでもいいんです。ルイボスティーっていう美味しい飲み物があるの知ってますか? チョコザップって運動だけじゃなくてカラオケやネイルなんかもできるんです。二重瞼にした私を見てみんなが笑うんです。それが楽しくて仕方ありません。二重跳びが百回跳べるようになりました。小学生のとき以来です。お気に入りの服を着て街に繰り出せば、どこに行くのも楽しいです。今まで何もしてこなかった人こそ、大きく変わるチャンスがあるんです。パーティーは終わるどころかまだ始まってもいないんです。傷をなめ合うのをやめて、その傷に化粧水を塗ってみるのも面白いとは思いませんか?

 昔から写真が苦手で、旅行に行ってもどんな記念日にも写真を撮ることをしなかった私が、結婚を祝して街の小さな写真館で妻と記念写真を撮りたいと提案した。実際の写真は載せられないのでイラストにてご勘弁ください。見よ、若かりし頃の加山雄三のような若大将ポーズで満面の笑みを見せる私を。この写真こそが美容と健康に勤しんだここ数年の到達点であり、ここからが新しい始まりとなる。

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

 私はこれからも美容と健康に根ざした生活を続けます。だって私は人と話すことが大好きだから。どうしても考え方が合わない人ともうまくやっていかなきゃならないし、時代に合わせたアップデートを求められても私のようなおじさんはそれに対応できるとは限らない。これから先の他人とのコミュニケーションってすごく大変になるでしょう。だからこそ私は「対話」をしたい。たとえ分かり合うことができなくても、お互いの存在を認め「対話」を続けることが大事なんです。そのために必要なこと、それはこの人となら話してみたいと思える清潔で可愛いおじさんでいることなんじゃないかと思うのです。今度ゆっくり話してみませんか。
 
 ということで私、もっともっと可愛いおじさんになりますので覚悟するように。

記事が続きます

『午前三時の化粧水』は今回で最終回になります。約2年のご愛読ありがとうございました。加筆修正・書き下ろしも加え、来春単行本化予定です。お楽しみに!

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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