よみタイ

私は炭酸水と生きていく。疲労回復、整腸作用、血行促進……なんかすごいぞ、炭酸水!

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 この悲しみも炭酸水で割れたらいいのにな。そんなことを思いながら、お次はリンゴジャムと炭酸水をシェイクする。うん、美味い。グラスの底に溜まったリンゴの果実がまた炭酸とよく合う。これはアレだな。シーフードカップヌードルの残り汁を飲み干した時に、底にたまっているエビやイカの具材の美味しさに似ている。アレがこの世で一番のご馳走だと信じて疑わなかった頃が懐かしい。
 
 そして今回の本命、フル―ティスの炭酸水割り。これが実に大当たり。元々お酒でもビールよりもカクテル派である私の好みにピッタリだ。何より隠し味としての「お酢」がいい。この酸っぱさがコクを深めてくれている。ミツカンならではのクオリティ、ミツカンは調味料だけじゃないんだな……、なんて恐ろしい会社なんだ。今後の健康維持のために「お酢」についても勉強する必要がありそうだ。

ミツカン、おそるべし!
ミツカン、おそるべし!
うまい、うまいぞ!
うまい、うまいぞ!

 まだ5月だというのに、夏真っ盛りというむせ返るような暑さが続く。こまめな水分補給が必要とされるこれからの季節に、炭酸水は大きな役割を果たしてくれるに違いない。

 しかし、炭酸水割りを作っていると、自分がバーテンにでもなったかのような錯覚を覚える。と同時にせっかくのスペシャル炭酸水割りを味気ないコップで飲むのが少しもったいない気がしてきた。

 そこで私は、化粧品売り場と同じぐらい足を運ぶことのなかった雑貨屋に立ち寄ったり、ショッピングサイトを徘徊したりしてマイグラスを吟味し始めた。飲み物さえ飲めれば入れ物なんて何でもいいと思っていた過去の私はもういない。そうだ、どうせなら彼女と一緒に使えるペアグラスがいい。ペアルックはもちろん、おそろいの物を持つことをを断固として拒否してきた恥ずかしがり屋の私だが、グラスぐらいならいいだろう。

 自宅にて、おそろいのグラスに入れたフルーティス割りで一杯やることに。割り切れないことが多い毎日だからこそ、せめて炭酸水割りでスッキリしませんか。なんて売れないコピーライターが考えそうなアホな文言が頭に浮かんでは消えていく。
 だが、言いたいことは私も同じだ。人生は割り切れない事だらけだが、炭酸水で割れないものはない。いや、割ったつもりで誤魔化し誤魔化し生きていこう。歳を取っていくにつれ味の好みも変わっていくことだろう。年老いた私は、いったい何を炭酸水で割ることになるんだろう。それが楽しみで仕方がない。

 ただ、困ったことがひとつある。炭酸飲料とよりを戻してからというもの、今まで深い付き合いをしてきたルイボスティーのことがやけに気になって仕方がない。今度の休みにはちょっと変わったルイボスティーでも探しに行こうかな。それとも、ルイボスティー割りを試してみようか。
 しかし、女癖が悪いのは自分でも重々承知していたが、まさか飲み物に関してまでこうもだらしないとは……でも、そんな自分が嫌いではない。ストレートに生きることができないろくでなしの喉にこそ、炭酸のシュワシュワは心地良く染みるのだから。

こちら、ペアグラス。
こちら、ペアグラス。

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当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は5月26日(日)配信予定です。お楽しみに!

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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