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花粉症が私に教えてくれたこと。心と体を整える人生の処方箋、それが「鼻うがい」なのだ

ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。作家としての夢をかなえた爪切男が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったく興味がなかったのに、ひょんなことから美容と健康に目覚め……。中年男性が本気で挑む美容と健康にまつわるエッセイ連載です。

前回は3COINSのメンズコスメブランドで初めてのベースメイクに挑戦したストーリーでした。
今回は、健康に気をつけて生活してきたものの、今春、花粉症が発症してしまった著者。その対策として経験した鼻うがいについて。
(イラスト/山田参助)

第42回 NO 鼻うがい,NO LIFE

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

 私事で恐縮だが、このたびピロリ菌の除菌に成功した。
 先日の胃カメラ検査にて感染が発覚、飲み薬を一週間にわたって服用する除菌治療を行った末、私の胃の中に巣食っていたピロリ菌は綺麗さっぱりとその姿を消した。
 医師の見立てでは、ピロリ菌と私は幼い頃からの長い付き合いだったらしい。竹馬の友というやつか。たちの悪い幼なじみとの腐れ縁がようやく切れたような嬉しさと同時に、なんともいえない寂しさもある。さよなら、ピロリ菌。ろくでもない私を体の中からずっと見守ってくれてありがとう。

除菌完了と書かれた検査票。ありがとうと言いつつサムズアップ!
除菌完了と書かれた検査票。ありがとうと言いつつサムズアップ!

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 さて、除菌を終えてからというもの、お腹を下す回数が明らかに減った。「人生の半分は下痢をしている」といっても過言ではないほどにお腹が弱かった私。外出先で急な便意に襲われ、何度肝を冷やしたかわからない。そんな私が、今や快便快眠快食の毎日を過ごしている。
 もう、お腹のトラブルに頭を悩ませることもなければ、胃がんのリスクも少なくなったんだな。気付けば季節はもう春。春は出会いと別れの季節ともいうが、ピロリ菌との別れを経て、この先どんな出会いが私を待ち受けているんだろう。
 そんな淡い期待に胸を膨らませていたら、四十四歳にして、初めて花粉症になってしまった。一難去ってまた一難、春の嵐はすぐそこまでやってきていた。

 花粉症とは全く縁のない人生を歩んできた。鼻水、くしゃみ、咳、目のかゆみ、頭痛に苦しむ人たちの様子を遠目に眺めながら「いいなぁ、みんなして花粉花粉って騒げて。自分だけ仲間外れにされてるみたいで寂しいな。ちょっとでいいから私も花粉症になってみたいよ」なんて憧れをずっと抱いていたぐらいである。花粉症で苦しんでいる人たちには、なんとも申し訳ない話なのだが。
 過去に「体から樹海の臭いがするね」と嫌味を言われるほどのハウスダストまみれの汚部屋に長年住んでいても、何の病気も発症しなかったし、今までアレルギーに悩まされたことも一度もない。そうだ、神に選ばれし人間である私がウイルスなどに負けるわけがない。そう、私こそがアイアンマンだ。そう信じて生きてきたのに、ここにきて花粉症が発症してしまうとは。まさか、ピロリ菌の呪いなのか?

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 目のかゆみと充血、止まらぬ鼻水と咳、鼻づまりにともなう激しい頭痛で立っているのもやっとという有様。あれだけ憧れていた花粉症の症状は、ちょっと信じられないぐらいにヘビーなものだった。超体育会系の親父に厳しく育てられた私は、たいていの病気は気合で何とかなるものだというガチガチの根性論を持ち合わせていたのだが、これは気合うんぬんでなんとかなるものではない。体というより心をへし折られてしまうレベルだ。ああ、こんな症状を抱えながら、ちゃんと働き、生活をしている花粉症の人たちよ。あなたちこそが真のファイターです。心からリスペクトします。

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 これは辛抱たまらんと、薬局で市販されている薬をいくつか試してみたが全くと言っていいほど効果がない。藁にもすがる思いで近所の病院へと駆けこむ。花粉症のシーズン到来とのことで、待合室は私と同じような症状の人たちで溢れかえっている。「みんな、頑張れ! ひとりじゃないぞ! 私も負けないから! 一緒に頑張ろう!」と花粉症初心者の分際でスクラムを組もうとする私。
 診察の結果、花粉症に効く抗生物質と鼻水と咳をマシにする薬を処方していただく。それに加えて、家でもできる花粉症対策として「鼻うがい」を医師から強く勧められた。

「鼻うがい」とは、鼻の粘膜に張り付いた花粉やハウスダスト、鼻をかんでも取りにくい粘り気のある鼻水などを取り除くもので、「ガラガラペッ!」とやっている喉うがいの鼻バージョンである。TVCMで今田耕司がちょっとどうかと思うぐらいの笑顔で鼻から大量に水を排出しているアレである。
 花粉症だけでなく、蓄膿症や風邪予防にも効果があるそうで、日常的に鼻うがいをしている人が増加しているらしい。うん、道理はわかる。確かにわかるのだがやっぱりちょっといかがわしい。怪しい。何より痛そうだ。
 などなど、以前の私なら適当な理由をこねて諦めていただろうが、今の私は違う。美容と健康のために、大嫌いだった納豆を食し、壮絶な胃カメラ検査だって乗り越えたのだ。鼻うがいごとき恐るるに足らずである。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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