2024.2.11
44歳、人生で初めて納豆を食べてみた。せっかくなので400回かき混ぜてみた
さらに、恋人が作ってくれたトッピングセットもスタンバイ。ツナマヨ、鮭フレーク、鶏そぼろ、私の大好物が勢ぞろい。納豆を単品で食べるのが難しい私には心強い援軍だ。そしてメインディッシュとして高級牛肉ステーキまで準備された。納豆を食べるご褒美にと恋人が奮発してくれたのだ。何から何まですみません。
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ついに戦いの火ぶたが切って落とされた。まずはスケベ根性丸出しで、女の子のイラストが描かれた粒納豆からチャレンジ。パックを開封した瞬間に立ち昇る匂いにあっという間に戦意喪失する私。
勇気を振り絞って一粒、二粒、三粒と口の中に納豆を放り込む。トッピングを投入し、えいやと勢いよく嚙み砕く。
ああ、不味い、苦い、辛い。豆特有のコリコリ感もあまり得意じゃない私には地獄の味わいだ。これならまだ錠剤を噛み砕いて食べた方が幾分かマシな気さえする。ダメだ、粒納豆はまだ早過ぎた。
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気を取り直して、お次はひきわり納豆に挑む。先ほどの粒納豆に比べ、皮もなければサイズも小さい。匂いはちょっと強めで、新宿ガード下の刺激臭を一瞬思い出させるが、過去に歌舞伎町で働いていた私からすれば、懐かしい匂いである。
ここでとっておきの切り札を出すことに。その名も「ねぎし作戦」だ。まずは山芋をすりおろし、ネバネバとろろご飯を準備する。これに先ほどの高級牛肉を合わせれば、私の大好きな「牛たん・とろろ・麦めし ねぎし」風のセットメニューの出来上がりだ。納豆のネバネバは嫌いだが、山芋のネバネバは大好物である。
とろろをすりおろし、納豆とよく混ぜ合わせる。そこにめんつゆを垂らし、トッピングで海苔とネギをさらっと振りかける。
よし、これならいける。覚悟を決めて納豆とろろご飯を口の中に放り込む。うん、うん、うん、とろろによって苦みが抑えられ、全然納豆を食べている気がしない。続けて牛肉をこれでもかとほおばる。あれ、これもう「ねぎし」じゃん。生まれて初めて納豆を食べた感動よりも、やっぱり「ねぎし」は最高だなという結論にたどり着いただけであった。まあいい、納豆を食べたという事実に変わりはないのだから。でもいつかは、納豆をちゃんと味わってみたい。納豆好きのみなさん、いろいろ言ってごめんなさい。
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「ネット見てたらさ、納豆って400回かき混ぜると一番美味しくなるんだって、試してみない?」
戦いの一部始終を見守っていた恋人が変なことを言い出す。またそんなオカルトを真に受けて……と思ったら、驚くことに科学的根拠に基づいた回数らしい。25回とか100回とか、付属品のタレを入れるのは305回からがベストとか色々あるみたいだが、まあ、とりえず400回混ぜてみますか。
「私もやってみよ~」とおじさんとおばさんが二人そろって納豆をぐ~るぐる。向かい合わせに座ってぐ~るぐる。
人生は自分が思っているほどドラマチックではない。生まれて初めて食べた納豆がめちゃくちゃ美味しいなんて奇跡は起こらなかった。美容の成果も最近の二人の関係もマンネリ気味ではあるけれど、メリーゴーラウンドのように同じ場所を回り続けているような毎日だけど、こうして一緒に納豆をかき混ぜるひととき、これはこれで悪くない。
小さな幸せを噛みしめていた瞬間、彼女のお茶碗から勢いよく飛び出した納豆が、私のズボンにライドオン。
「もったいないから食べなさい」という迫力に押されて、指で摘まみ上げた納豆をお口にイン。400回近くもかき混ぜたというのに、やっぱり不味くて笑えてくる。
人生も美容もうまくいかないことの方が多くて嫌になる。でもこの人となら、どんなにうまくいかないこともいとおしく思えるんじゃないか。そんなつつがない毎日をこれからも一緒に送りたいと願う。
納豆まみれの食器を洗うという大仕事が残っていることを忘れ、呑気に愛を誓う私なのであった。
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当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は2月25日(日)配信予定です。お楽しみに!
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