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白湯を飲むことで気づいた「何もしないでいる時間」の大切さ

 中年期を迎え、人生の残りが少なくなってきたと急に焦り出し、アレもコレもやらねばと張り切る人がいる。それも悪くはないが、あらゆる責任、組織、家族、社会から解き放たれ、ただただボーっと怠け惚けるだけの時間を一日のどこかで作ることも大切だ。
 お湯が沸騰する100℃の熱量で太く短く生きるより、白湯のように適度に冷ました熱量で、私は長生きしたいのだ。

 しかし考えてみると、村上春樹という存在がなければ、私が「朝活」しいては「白湯」に興味を持つことはなかった。世界的作家・村上春樹の偉大さに改めて敬服すると共に、心から「サンキュー春樹!」と言わざるを得ない。
 ともすれば、村上春樹の著作の中には、私の人生に必要な金言がまだまだ眠っているのかもしれない。そう思って手に取った『走ることについて語るときに僕の語ること』という本の中に、こんな一文を見つけた。

“これからの長い人生を小説家として送っていくつもりなら、体力を維持しつつ、体重を適正に保つための方法を見つけなくてはならない”

 なんと耳の痛いお言葉か。おい、春樹、こん畜生が、お前まで適正体重なんて言うのかよ。今に見ていろ、村上春樹。あなたのような文才はないけれど、あなたよりも可愛くてお肌ツヤツヤのおじさんに俺はなる。春樹よ、お前も白湯を飲め。もう飲んでたらごめんなさい。

「四月から日本の朝が変わります!」
 TVに映る朝の情報新番組のMCが元気一杯に声を張り上げる。
 私は知っている。
 日本の朝はそう簡単には変わらないが、自分の朝は自分で簡単に変えられる。一杯の白湯が私の朝を変えてくれたように。

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は4月9日(日)配信予定です。お楽しみに!

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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