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白湯を飲むことで気づいた「何もしないでいる時間」の大切さ

「白湯」とは一度沸騰したお湯を冷ましたもので、別名「湯冷まし」とも呼ばれる。健康と美容に関心を持つ人の間で人気沸騰で、最近ではコンビニで白湯が売られているぐらいである。
 作り方は簡単で、やかんに入れた水道水やミネラルウォーターを火にかけて沸騰させるだけ。湯気が上がりやすいようにやかんの蓋を取り、泡がボコボコ出始めてからも十五分ほど沸騰させ続けることが望ましい。あとは飲みやすい温度(50~60℃前後)まで冷まして出来上がり。

「白湯=味がしない」と思いきや、その日の体調によって味が明確に変わる。ストレスが溜まりがちなときはしょっぱく、寝不足のときは苦く、体がむくんでいるときはほんのりとした甘さを感じる。己の体調を知るためのバロメーター、それが「白湯」である。
 その主な効能としては、腸内の老廃物を洗い流すデトックス効果、ダイエット補助、美肌促進、冷え性改善などが挙げられるが、果たしてその実は?

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「朝活」と称し、起き抜けに一杯の白湯をキメるようになってから一か月、目に見えて何が変わったというような明確な効果はまだ出ていないものの、ここのところの体調がすこぶる良いことだけは間違いない。
 朝は白湯、日中はルイボスティー、夜は養命酒で締めるという黄金の飲み物ローテーションが完成された今、私はどれだけ健康になってしまうのか。自分の未来がこんなにも楽しみなのは久しぶりだ。

 そんな白湯が、思いも寄らぬ副産物を私の生活にもたらしてくれた。それは、何も考えずにボ~っとできる「無の時間」である。
 やかんの中を覗き込み、お湯がグツグツと沸騰する様子を無心で眺めるひととき。沸騰したお湯が適温に下がるまでのんびり待ち続けるひととき。瞑想のような高尚なものではなく、だらしなくボ~っと解脱するだけの時間。
 同じようなものでいうと、パソコンで何かソフトをインストールするとき「現在45%完了」といった具合に進捗を示す左から右に伸びていくバー。あれが100%を迎えるまで、ひたすら見守り続けるあの時間。あの不毛で楽しいひとときによく似ている。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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