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畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」
20年以上、国内外の選挙の現場を多数取材している、開高健ノンフィクション賞作家による“楽しくてタメになる”選挙エッセイ。

前回の第45回は横浜市長選挙で「落選運動」を展開した弁護士・郷原信郎氏に詳しく話を聞きました。

今回は、先月末の自民党総裁選から、まさに今日、第100代総理大臣となった岸田内閣についてのお話です。衆議院総選挙も19日公示、31日投票の日程で選挙を行う意向になりました! 

キーワードは耳。岸田内閣には「初耳内閣」「寝耳に水内閣」「空耳内閣」と名づけよう

自民党総裁選(写真)を経て、本日10月4日(月)第100代総理大臣に選出された岸田総理大臣。(撮影/畠山理仁)
自民党総裁選(写真)を経て、本日10月4日(月)第100代総理大臣に選出された岸田総理大臣。(撮影/畠山理仁)

いやな予感が的中! 「YouTubeなどでご覧ください」

「感染症対策のため、フリーランスの方は現地で取材いただけません。自民党総裁選告示日の党本部での取材は、記者クラブの方と代表取材に制限させていただきます。記者クラブの方も1社1名でお願いしていますので、どうかご理解下さい。当日の模様はYouTubeなどでご覧ください」

 ぼんやりとした不安は的中した。

 9月17日告示・9月29日投開票の日程で行われた自由民主党総裁選挙。この時期は東京都に緊急事態宣言が発出されていたため、私は「感染症予防」を理由に取材制限があるのではないかと予想していた。そう考えながら自民党本部に取材申し込みの電話を入れると、残念ながら冒頭の答えが返ってきたのだった。

現在のコロナ禍において、「感染症予防」という理由は強い。緊急事態宣言が出ていたときならばなおさらだ。だから自民党の要望もわかる。しかし、事実上の次期首相を決める総裁選を現地取材したいという私の希望は、告示前から打ち砕かれてしまった。

「YouTubeなどでご覧ください」

 実はこの言葉は大きな意味を持つ。それは記者の仕事をしたことがある人ならわかるはずだ。

 カメラのフレームの外にはたくさんの情報がある。会場にいれば、誰がどんな様子でそこにいるかを見ることができる。記者たちの空気もわかる。
 しかし、YouTubeでは自分の意思でカメラを動かすことができない。よそ見ができない。そこにいる人に声をかけることもできない。つまり、先方が「見せたい」と思っているものしか見られない。記者会見でも質問できない。カメラから送られてくる情報をただ受け取るだけだ。

「そんなの大したことじゃない。記者会見は別に代表カメラでいいだろう」

 そう思う人もいるかもしれないが、記者はそれぞれ見たいものが違う。何かを見るタイミングも、見るのをやめるタイミングも違う。カメラのスイッチのオン、オフも人それぞれだ。記者が現場に入れないということは、そうした自由が奪われることを意味している。

 ピンとこない人もいるかもしれない。そこで、私が最近取材した事例を紹介したい。それは8月30日に行われた山中竹春横浜市長の就任記者会見だ。

 横浜市は市長の記者会見を生中継し、アーカイブを公開している。だから現場に行かなくても記者会見を見ることができる。コロナ禍だから現場に行かないのも選択の一つだ。

 しかし、ここでは大きな問題が起きている。横浜市による中継カメラは、司会をする市職員の「これで会見を終わります」という一言とともに切れてしまうのだ。
記者側も「会見終了」を了承して円満に終わるなら問題はない。しかし、この就任会見の現場では、市職員の「終了宣言後」も記者から声が上がっていた。会見がわずか35分という短さで突然打ち切られたからだ。

 この時、山中市長は記者の質問に反応し、いくつかのやり取りが行われた。その中には、横浜市長選挙告示前に山中氏の「パワハラ」疑惑を報じた『FLASH』記者との大事なやりとりもあった。別の記者からも「事実無根であれば訴訟を起こす考えはありますか」という問いかけがなされた。しかし、山中市長は途中から問いに答えず、記者会見場を後にしてしまった。

 私は現場にいたからやり取りを聞き、記録することができた。ところが数日後に市役所のアーカイブで公開された映像には、その部分が全く記録されていなかった(私がYouTubeにアップした動画の35:14秒以降)。

山中竹春 横浜市長就任記者会見(2021年8月30日撮影)35:14秒以降

 違いを確認してほしい。横浜市がアーカイブに残している動画は次のリンクから見られる。中継同様、最後がバッサリ切られている。有権者はどちらの動画を見たいと思うだろうか。

令和3年8月30日-市長定例記者会見(横浜市市長会見インターネット中継)

 横浜市からすれば、「会見終了宣言後」だから、映像を切っても問題がないという整理だろう。しかし、横浜市民にとって、市長が記者からの問いかけにどんな対応をするかは大切な情報だ。公式記録として残らなくても、記者が現場に入っていれば伝える方法はある。参加を希望する記者を会見場に入れるだけ、横浜市はまだマシなのかもしれない。

「YouTubeなどでご覧ください」
 
 この一言は、そうした可能性の芽を摘むことになる。この言葉を簡単に発してしまう自民党は、多額の税金が注ぎ込まれている公党としてどう考えるのだろうか。
自民党には責任ある公党として、「開かれた総裁選」という意識を強く持ってほしい。

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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