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金髪モヒカンの市議会議員誕生! 「勝手につくば大使」に会いに行く

20年以上、国内外の選挙の現場を多数取材している、開高健ノンフィクション賞作家による“楽しくてタメになる”選挙エッセイ。
 前回の第26回は11月1日に行われた大阪市の住民投票を現地取材。5年前にも現地取材した畠山氏が感じた大きな違いについてレポートしました。 今回は、10月に行われた茨城県のつくば市議会議員選挙で当選し話題になっている「勝手につくば大使」を直撃してきました。話をきくと、真面目な本人の思い、そしてつくば愛があふれていました。ぜひご一読ください。

金髪モヒカンの「勝手につくば大使」。文字が蓄光インクで光るポスタービラと「勝手につくば大使」タスキ、そして当選証書。(撮影/畠山理仁)
金髪モヒカンの「勝手につくば大使」。文字が蓄光インクで光るポスタービラと「勝手につくば大使」タスキ、そして当選証書。(撮影/畠山理仁)

金髪モヒカンの大使はとにかく自然体

 選挙は毎週どこかである。できれば、その全部を自分の目で見たい。しかし、どうしても現地に行けない選挙もある。そんな選挙の一つが茨城県のつくば市議会議員選挙(10月18日告示・10月25日投開票)だった。定数28人の市議選に41人が立候補していたのだ。

 つくば市議選が告示されると、私のもとにはいろんな人から情報が寄せられた。
「『勝手につくば大使』という人が出ています!」
「スーパークレイジー君党からは女性候補が立候補しています!」
「『勝手につくば大使』にはもう会いましたか?」
 そんなメッセージとともに、金髪モヒカン姿の「勝手につくば大使」が映っているポスター画像を送ってくれる人もいた。文字の部分は蓄光のインクになっており、夜は光るという。私が他の仕事の都合で選挙期間中に現地入りできないことを残念に思っていると、投開票日の深夜にまた別の人が教えてくれた。
「『勝手につくば大使』が当選しましたよ!」
 これは行かねばなるまい。普段の選挙取材なら「勝手に」行くところだが、選挙終了後ということでアポを取ることにした。

 取材当日、時間通りに待ち合わせ場所に到着すると、金髪モヒカン、セーターにスエットの短パン、足元はサンダル履きという超ラフな格好の人がいた。

「こんにちは。『勝手につくば大使』小村政文です!」

 大使を名乗るだけはある。きわめてにこやかに声をかけてきてくれた。お互い簡単に挨拶を交わし、さっそく近くのご自宅にお邪魔して話を聞くことにした。

「ここです」
 案内された「勝手につくば大使」の自宅アパート前には広い駐車場があった。駐車スペースはきちんと白線で区切られている。しかし、停まっている車は少ない。そして、大使の車は白線とはまったく関係ない角度で停められていた。こんなに自由に停めて大丈夫なのか。
「大家さんが『好きに停めていいよー』って言ってくれてるんです。とってもいい人なんですよー」
 たしかに駐車場は空いている。しかし、それならばなぜ、大家さんは白線をひいたのか。

「汚いですけど、どうぞ」
 大使がそう言って扉を開けると、ワンルームの部屋の奥には洗濯物が干されていた。
「洗濯物干しっぱなしなんですけど、大丈夫ですかね?」
 きちんと洗濯をしていることがわかって逆に安心した。部屋の中はシンプルで物も少ない。清潔感のある部屋で片付いている。
「一応は片付けたんですよー」
 と大使は言ったが、アパートの玄関前には空になったバカルディの小瓶が倒れて転がっていた。自然体の人であることは間違いない。

取材は自宅にて。ちゃんと洗濯をしている大使。(撮影/畠山理仁)
取材は自宅にて。ちゃんと洗濯をしている大使。(撮影/畠山理仁)

ずっと「地元」がほしかった

 そもそも「勝手につくば大使」とは何者なのか? そう思っている人がほとんどだろうから、まずは簡単に紹介する。

 「勝手につくば大使」の本名は小村政文(こむら・まさふみ)さんという。生まれたのは北海道の網走市。父親の転勤に伴う引越しで、これまでに全国10カ所以上を転々としてきた。

「小学校に入る前に3回、小学校でも3回転校しました。もう引っ越したくない、落ち着きたい、ふるさとや地元が欲しいとずっと思っていたんですよね。つくばには大学を選ぶときに初めて来たんですが、『広くていいな!』と思って決めました。今ではもう、つくばは自分にとっての地元です。つくば以外の土地に行くと窮屈で『早くつくばに帰りたい』と思う。つくばに住み続けられることがとにかく嬉しいんです」

 高校卒業後、小村さんは1年の浪人生活を経て、筑波大学生物資源学類に入学した。つくばのイベントや飲食店を取材して、茨城県つくば市の魅力を発信する「勝手につくば大使」としての活動を始めたのは2015年11月からだ。そもそものきっかけはなんだったのか。

「自分は大学1年のときから金髪で、もともと会社勤めをしたくはなかった。とにかく自分で起業したいと思っていたんですよ」

 え? 起業!? 勝手につくば大使はビジネスだったのか?

「先輩に『起業したい』と相談した時、書いたプランに全部ダメ出しされたんです。そこで一から考え直す中で、『つくばをもっと知りたいんですよね』という話をしたら『勝手につくば大使がいいんじゃね?』というアイデアをもらったんです。『それは面白い! これだ!』と思いました。それまでパソコンには触ったこともなかったんですが、すぐにやろうと決めて、10日後には『勝手につくば大使』のブログを書き始めました」

 小村さんは「職種のイメージはなく、とにかく起業したかった」「自分が社長なら自由に生きていけるから起業したかった」と一切飾らずに答えた。きわめて正直な人という印象だ。

「当時は勝手に活動を続けていれば、なにかうまいこと行ってチャンスが広がる、道が見えてくるだろうと根拠なく思っていたんです。最初は100日連続で記事を投稿し、3年間で700本の記事を書きました」

 しかし、ブログで得た収入は「3年間で2万円」。「起業」と呼ぶには程遠い。
 それでも小村さんは地道に活動を続けた。すると、地域に知り合いや友人がどんどん増え、つくばの情報が自然に集まるようになった。小村さんにとって、「勝手につくば大使」の活動はライフスタイルそのものになった。
 だが、大学に通いながらブログを書き続ける生活はハードでパンクした。そこで3年生の冬に大学を2年間休学することを決意し、休学期間中にフリーペーパー『勝手につくばタイムズ』(のちの『ツクバ人間』)を創刊した。

「フリーペーパーには広告も出してもらいましたが、それでも収入はほとんどありませんでしたね(笑)。居酒屋で7年間、週に4日〜5日働いて、そのお金で生活費を賄っていました。選挙に出ようと決めたのは昨年冬です」

フリーペーパー『勝手につくばタイムズ』と『ツクバ人間』。インパクトがすごい! つくばの魅力的な人たちが紹介されている。(撮影/畠山理仁)
フリーペーパー『勝手につくばタイムズ』と『ツクバ人間』。インパクトがすごい! つくばの魅力的な人たちが紹介されている。(撮影/畠山理仁)
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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』『コロナ時代の選挙漫遊記』(ともに集英社)などの著書がある。またその取材活動は『NO 選挙, NO LIFE』(前田亜紀監督)として映画化された。
公式ツイッターは@hatakezo

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