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名古屋市長選挙の熱き戦いは河村たかし氏の当選で終わった。しかし大村愛知県知事との戦いは終わらない。

「コロナ対策については、河村さんは関わっていない」 と語る大村県知事。河村氏との関係は最悪の状態のようだ。(撮影/畠山理仁)
「コロナ対策については、河村さんは関わっていない」 と語る大村県知事。河村氏との関係は最悪の状態のようだ。(撮影/畠山理仁)

大村知事の定例記者会見では河村市長への辛辣な言葉がバンバン!

 いま、大村秀章愛知県知事と河村たかし名古屋市長の関係は悪い。かつては一緒に選挙を戦ったこともある2人だが、2019年の「あいちトリエンナーレ」問題で関係悪化は決定的になった。今回の名古屋市長選挙では、大村知事は自民、立憲、公明、国民が推薦する横井利明氏を公然と応援していた。

 これは大村知事のコメントも聞かねばなるまい。

 そこで4月26日(月)に開かれる大村知事の定例記者会見への参加を申し込んだ。県知事定例会見の主催は県政記者クラブである。幹事社の毎日新聞に連絡し、参加して質問したい旨を伝えると、「参加、撮影、動画の生配信、質問」の可否について、県政記者クラブ加盟社の意向をとりまとめてくれた。
 その結果、参加と質問、撮影は加盟社の過半数の賛同を得られたが、生配信と質問は「不可」とされた。質問ができない「オブザーバー参加」ということだった。
 しかし、参加する価値はあった。私が聞きたかった質問のいくつかを、クラブの記者が聞いていたからだ。

 この日の記者会見で、大村知事と河村市長の関係が改めて最悪な状況にあるとわかった。大村知事の河村氏に対する辛辣な言葉がバンバン出たからだ。

「(河村氏は)政治家としての資質には欠ける」
「コロナ対策については、河村さんは関わっていない」
「河村さんがいてもいなくても一緒だということは申し上げたい」
「(もし、横井利明候補が)市長になってしょっちゅう連絡を取っていたらスピード感が高まる。機動的にやっていけるんじゃないかという期待はあった。(横井氏は)職員の気持ちもわかるので、現場の士気も上がったのではないかという期待もあった」

 これは選挙戦で「名古屋のコロナ対策は日本一だ」と豪語してきた河村氏の主張とは全く食い違うものだ。

 私はこの日の午後、河村たかし名古屋市長の定例記者会見にも参加して「大村知事発言」について質問した。市長会見の主催は市政記者クラブで、窓口となった幹事社は名古屋テレビ。事前に加盟社の意向を聞いてもらったところ、「参加、撮影、動画の生配信、質問」、すべて過半数のOKが得られたという。記者クラブはそれぞれ独立した存在だが、県政記者クラブとの違いが際立つことになった。
 私はクラブ加盟社の質問が一通り出尽くした後、大村知事の発言を正確に紹介し、河村市長にこう質問した。

「知事と市長が話し合いの場を持たないことは、名古屋市民、愛知県民にとっていいことなのか、悪いことなのか。どちらだと思われるでしょうか」

 河村市長は即答した。

「そりゃあ、仲良くやったほうがいいに決まっとる。でも、そう言われたらどうする。そりゃあ、名誉毀損じゃないですか。名古屋市に対する名誉毀損だと思うよ。とくに(市の)保健所の職員も血みどろの努力をやっとる。そういう人たちあってのコロナ。どうしたらいいの、こんなこと言われたら」

 会見を終えてホテルでテレビをつけると、NHKのニュースでこの質疑が放送されていた。

 なお、河村氏はこの日の記者会見で、26日に「絶交だ」とメディアを通じて河村氏へのメッセージを発していた高須克弥氏(美容外科「高須クリニック」院長)に対する対応を記者に説明した。高須氏は、大村秀章・愛知県知事に対するリコール運動団体の会長を努めていた人物だ。
 河村氏は自らが高須氏に送ったというメールの文面を記者に配り、困惑した表情でこう言った。

「今日の午前中、31回電話をコールしたけど出てくれなかった。『大きな誤解があったのでしょうか』『一度お会いする時間を下さい』とメールを送りました」

 それを受けて、私は河村氏にもう一問聞いている。

「高須さんには『一度お会いする時間を下さい』と書いたそうだが、大村知事に対してはこのような気持ちにはならないのか」

 この質問に対する河村氏の答えはこうだった。

「そりゃあ、別にアレしてもいいですよ。ワシなんて。全部ワシが言い始めたことじゃないから。そういう状況(※知事と市長の関係悪化)になったのは。そういう言い方(※大村知事発言)はやめてください。そりゃあ、普通ならちょっと謝ってもらわにゃいかん。名古屋市は愛知県の部下じゃない」

 名古屋市長選挙の報告を通じて、みなさんに何かを感じてもらえたら幸いだ。

【名古屋市長選挙結果・得票数順】

当選 河村たかし(かわむら・たかし)72歳・減税日本代表=無現 39万8656票
   横井利明(よこい・としあき)59歳・元名古屋市議長=無新、自・立・公・国 35万711票
   太田敏光(おおた・としみつ)72歳・元会社員=無新 1万3804票
   押越清悦(おしこし・せいいち)62歳・NPO代表=無新 8162票

序盤から河村氏に公開討論を申し入れるなど激しい選挙戦で接戦にもちこんだ横井利明候補。(撮影/畠山理仁)
序盤から河村氏に公開討論を申し入れるなど激しい選挙戦で接戦にもちこんだ横井利明候補。(撮影/畠山理仁)

 選挙戦を戦った残る3名の候補にも触れておく。

 横井利明候補の出馬表明は3月半ば。横井候補を全面支援した大村知事は、4月26日の記者会見で横井候補の敗因を次のように分析した。

「選挙は有権者の皆さんに投票所に行ってもらって名前を書いてもらわないといけない。大前提として、顔と名前。知名度が一番大きなポイントになると思う」「よく追っかけたということだが、知名度という点で一歩及ばなかったのではないか。大変残念な結果だが、民主主義は公正な手段で行われた選挙、直接投票という制度で裏打ちされていますので、率直に受け止めていく」

供託金以外の選挙費用は3千円程度。自身5回目の選挙となった太田敏光氏。(撮影/畠山理仁)
供託金以外の選挙費用は3千円程度。自身5回目の選挙となった太田敏光氏。(撮影/畠山理仁)

 選挙戦最終日の夜、太田敏光候補に電話すると「敗戦のコメントを今から言っておくから投開票日はのんびりさせて」と言われた。

「勝てるわけがない。でも、私は選挙に出ることで世の中を変えていっている」

 最終日に公園で愛知県知事リコール不正署名問題について演説していると「若者が大声をあげて近寄り、顔をくっつけて威嚇してきた。前にも殴られたり後ろから怒鳴られたり飲み物をかけられたりした。怪我はしてないけど心は折れるよ。演説を切り上げて帰ってきた」。
 選挙の自由を邪魔することは、あってはならない。

都知事選立候補時と変わらずやさしい語り口だが主張がものすごく激しい押越清悦候補。(撮影/畠山理仁)
都知事選立候補時と変わらずやさしい語り口だが主張がものすごく激しい押越清悦候補。(撮影/畠山理仁)

 選挙戦最終日の押越清悦候補。
 
「東京都知事選のときと同じで、やれることを一分の隙もなく一生懸命やってきたので何の悔いもないです! 供託金は集団ストーカー被害者のみなさんのカンパ。のべ50人ぐらいが選挙を手伝ってくれました。今度は都議選を考えております。目標? 絶対無理だと思うけど、万が一、供託金が返ってきたら横浜市長選にも出たい」

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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