2021.4.26
名古屋市長選挙の熱き戦いは河村たかし氏の当選で終わった。しかし大村愛知県知事との戦いは終わらない。
当確前にひと言、「でっかいキンタ◯〜!」
4月25日(日)、19時30分すぎ。
私は投開票日を迎えた名古屋市長選挙の候補者・河村たかし氏の事務所前にいた。この時点では、まだ市内の投票所で投票が続いていた。しかし、事務所隣の空き地には20脚ほどの丸椅子が置かれ、すでに支援者とみられる人たちが10人ほど座っていた。
空席の上にはアルコールが置かれていた。消毒用のアルコールではない。缶入りの「サントリースペシャルリザーブ&ウォーター」で自席を確保している人がいた。おしゃべりをしている人たちの中には、ほろ酔い気分としか思えないテンションの人もいた。
いま、新型コロナ禍で「密を避ける」という言葉が当たり前になっている。しかし、河村事務所前だけは別だった。座っている人たちはマスクをつけてはいるが、ワイワイ、ガヤガヤとした雰囲気でおしゃべりを続けている。どこからか椅子を持ってきて隙間に詰める。マスクを付けていないカップルも近くに様子を観にやってきた。パジャマ姿であらわれたすっぴんの女性もいた。
世の中にはいろんな人がいる。誰もが一票を持っている。河村たかし事務所前からは、選挙が「みんなのまつり」だということがよく伝わってきた。
この時点では、まだ投票箱は閉まっていない。だから選挙結果の「当確」はどのメディアも出していない。各メディアが「当確」を打つとすれば、どんなに早くても投票箱が閉まった20時すぎだ。各メディアが行う事務所からの生中継も、有権者の投票行動に影響を与えないよう、投票箱が閉まるまでは始まらない。
もし、河村氏が圧勝していれば、20時ちょうどに「当確」を打つ「ゼロ打ち」の瞬間に立ち会える。集まった報道陣はその瞬間を撮り逃がさないよう、しきりに会場の支援者たちにカメラを向けていた。
「まだ当確出んかな〜?」
「何時頃出るかな〜?」
口々にそう言って結果を待つ支援者に、報道陣のカメラは何度もピントを合わせていた。
19時57分──。あと3分で投票箱が閉まるというとき、会場に大きな変化があった。事務所前の道路に停められたステージカーに一番近い、前列ど真ん中に座る72歳の男性が、突然、「待ちきれん!」と言って、勝手に両手を挙げて叫んだのだ。
「バンザ〜イ!」
報道陣に緊張が走り、一斉に男性にカメラを向ける。これは予行演習なのか? それとも本番なのか?
その場にいた全員が微妙な時間に戸惑っていると、男性はさらに大きな声でこう続けた。
「でっかいキンタ◯〜!」
まったくわけがわからない。多くのカメラマンは生放送していなくてよかったと胸をなでおろしたことだろう。はっきり言って、男性がなぜこのような言葉を叫んだのか、まったく意味がわからない。
「おれは昭和23年生まれ。72歳。河村さんと同い年だでよ〜」
お元気なのは何よりだ。しかし、もっと驚いたのは周りの人たちの反応だ。男性の言葉に顔をしかめるでもなく、平然とした顔でおしゃべりを続けている。
「こないだもテレビに出してもらったで。今日は知っとるテレビの記者がおらんね〜」
誰も男性の言動に動じていない。さすがは人生経験豊富な支援者だ。椅子に座っている人たちの多くは高齢だが、しばらくすると、インスタライブで中継をしている若者が最前列に座った。スマホのインカメラで「◯◯さん、いらっしゃーい。観てくれてありがとー」などと大きな声で生配信を続けている。空気は読まない。時には青いスタッフジャンバーを来た選挙スタッフを呼びつけて「この人が功労者なんです!」などと中継を続けている。その男性は聴衆の中に別の知り合いを見つけると、大声で「◯◯ちゃーん!」とカメラの前に呼びつけていた。その様子をみていた80代の女性が「私もスマホ持っとるけど、孫とLINEするぐらいだわ」と私に話しかけてくる。
「孫は浜松の専門学校行っとるんだけど、私はうなぎは一回しか食べたことがない」
選挙には全く関係ない。とにかくすごい空間だったことがわかってもらえるだろうか。
選挙はいろんな人が関わる「まつり」だ。しかし、河村事務所に集まってくる人たちは特にキャラが濃かった。カオスだ。こうした人たちも惹きつけてしまうのが「選挙モンスター」と呼ばれる河村たかし氏のキャラクターなのかもしれない。