2021.2.15
政治家が選挙で選ばれることの大切さを教えてくれる首相や防衛省の記者会見
政治家は本来、有権者と行政をつなぐパイプ役
政治家が「選挙」で選ばれる理由は簡単だ。政治の方向付けに「民意」を反映するためである。政治がどこへ向かうかは有権者の一票によって変わる。政治を良くするのも悪くするのも、有権者の一票にかかっている。
だから私は何度も、選挙に行くことは大切だと言ってきた。
選挙で選ばれた政治家は「有権者の代表」として仕事をする。自分に一票を入れてくれた人のことはもちろん、自分に票を入れてくれなかった人の意向にも配慮しながら仕事を進めていく。それは国民の税金を報酬として受け取る「全体の奉仕者」として当然だ。
いま、行政に携わる公務員の数は政治家よりも圧倒的に多い。しかし、そのトップには政治家が就く。それは公務員の仕事を「民意」によって方向付けするためだ。公務員が政治家の意向を無視できないのは、政治家が有権者の付託を受けているからにほかならない。
私たちは行政が正常に機能しているかどうかを、政治家を通じてチェックする。つまり、政治家は有権者と行政をつなぐパイプ役だと言っていい。
政治家が自分の言葉で語らないなら、選挙で選ぶ意味がなくなる
この前提を共有した上で問題提起をしたい。今、政治家は本当に有権者とのパイプ役になっているだろうか。有権者の支持を受けた者として、有権者の言葉を代弁しているだろうか。一部の人の利益のためだけに動いていないだろうか。官僚が作った作文を、ただ読むだけの存在になっていないだろうか。
そんなことを感じたのは、政府の公的な記者会見があまりにもお粗末だからだ。
みなさんも、菅義偉首相が記者会見で原稿を棒読みしているシーンを目にしたことがあると思う。「菅首相が自分の言葉で語っている」と感じる人はどれくらいいるだろうか。
首相の発言は重いから、間違いが起きないように原稿を読むことは否定しない。しかし、たびたび「読み間違い」が発生している。そこで浮上するのが、「官僚の作文を読まされているのではないか」という疑問だ。
あまり知られていないことかもしれないが、首相の記者会見で出る質問の多くは事前に想定問答が作られている。記者会見が開かれる前に、官邸報道室と内閣記者会幹事社の間では代表質問のすり合わせがされている。これは国会でも確認されている事実だ。
それ以外の記者から出る質問も、官邸報道室の職員が事前に「どんなことに興味があるか」と問い合わせをしている。そして、ある程度の想定問答が作成されている。だから記者からの質問が出た時、首相は演台の上に置かれたファイルに目を落とす。
いま、菅首相の記者会見は「1人1問」という謎の制限が設けられている。そのため、首相の回答が不十分でも再質問ができない。質問者を指名するのも内閣広報官という官僚だ。だから、当てたくない記者には当てないことができる。つまり、予想される記者の質問に対して用意された答えを「読みっぱなし」で終わってしまうことが少なくない。
政治家が失敗を恐れるあまり、自分の言葉で語らない。官僚の作文を読むことに終始する。これでは政治家を選挙で選ぶ意味がなくなってしまうのではないだろうか。