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金髪モヒカンの市議会議員誕生! 「勝手につくば大使」に会いに行く

金をかけない選挙で2401票獲得

 当選の瞬間を振り返ってもらおうと話を進めたところで驚いた。なんと、小村さんは当選の瞬間を一人で迎えていた。場所は自宅アパートで、応援してくれた人たちと一緒に開票を見守ることはしなかったという。

「選挙についてよくわかんないから、下手なことはできないと思ったんです。そもそも新型コロナ禍で集まれないし、投票日に集まること自体が自分に投票しろと強要してるみたいじゃないですか。だから投票日は何もやらかさないように、家から一歩も出ませんでした(笑)」

 自分への投票は期日前投票で済ませていたというが、どんな選挙運動をしていたのか。

 まず気になるのはお金だ。いったい、選挙にどれくらいお金をかけたのか。
「供託金30万円の他にかかったお金は1万円ぐらいです。選挙カーのガソリン代が8000円、ポスター貼りをお願いする際の地図のコピー代が2000円です。ポスター貼りはSNSなどを通じて周りの人に手伝ってくれと頼んだら、つくばの地元を知り尽くしている人たちが10人ぐらい手伝ってくれました。選挙2日目には全部張り終わりました」

 ポスターやチラシの制作費は?
「選挙にかかるお金は公費負担といって、供託金没収ラインを超えると公的に負担してもらえます。ポスター代は市内462カ所の公営掲示場の分×1.1倍(破損等による張替えに対応するため)まで刷ることができます。1枚の上限が千円で509枚だから、50万9千円。ビラは1枚7円51銭で4000枚まで刷れるから3万40円。ただし、これは自分が先払いするのではなく、市から業者に支払われます。選挙カー代も公費負担を受けられますが、僕はマイカーを使ったので、その分はかかっていません」

 選挙カーは単なる移動手段と考え、大きなスピーカーや看板をつけることもしなかった。選挙ポスターを車に貼り付けただけだ。
「うるさいのが嫌いなんです。運動員も雇わず、ウグイス嬢もいないから人件費もかかっていません。始発が出る時間に駅で挨拶して、8時になったら場所をどんどん移動してスポット演説をしました。ショッピングモール周辺の道路を歩きながら話したり、交差点の角で立って話したり。人を集めての集会などはやっていません」

 活動は基本的に一人。勝手につくば大使も一人でやっているので、ソロ活動には慣れていたという。選挙期間中の発信は、街頭活動を終えて自宅に戻ってからYouTubeやSNSを活用した。
「『勝手につくば大使』ってなんなんだというところから、どんな思いで5年間やってきたのか、どんなにつくばが好きなのかを説明しました。できないことを言うのではなく、自分がどんな人間であるかを説明しようと思ったんです。もちろん、こういう議会にしていきたい、とか、マニフェストの話もしました。街中で会った人から『あ、大使だ! 頑張って』と手を振ってもらえたり、SNSで『大使、行けるぞ』という応援メッセージをもらえたのは嬉しかったですね」

 驚くべきことに、選挙中には市議選に出た候補者41名の選挙公報を紹介しながら投票を呼びかける動画も作った。自分も候補者なのに他の候補者もしっかり紹介する。まさに「勝手につくば大使」の面目躍如である。

当選無効の異議申し立てをされてしまった

 「よそ者」「若者」「馬鹿者」として選挙に初挑戦した「勝手につくば大使」は、激戦の末、見事に当選した。10月27日には市役所で当選証書も受け取った。

 しかし、選挙後の11月9日に大きな出来事が起きた。つくば市の市民5人が連名で、「『勝手につくば大使』の当選無効を求める異議申し立て」をしたのだ。その内容は、市選挙管理委員会が「勝手につくば大使」の通称使用を認めたことは違法だと主張するものだ。

「自分は正式に手続きを取って通称認定を受けています。通称認定にあたっても全く揉めなかったので驚いています」
 と小村さんは言う。今のところ、当選証書は小村さんの手元にある。しかし、同時に異議申し立てが進んでいるため、供託金返還手続きが止まっている。また、選挙費用の公費負担がどうなるかも宙に浮いた状態だ。
 小村さんの得票が有効と判断されれば、2401票を獲得した小村さんには供託金が返還される。選挙費用の公費負担も受けられる。

「でも、もし得票も無効とされたら、供託金、ポスター、チラシの代金も含めて80万円以上を自分で背負わなきゃいけなくなります。そのリスクは覚悟の上で飛び込んでいるけれど、正直なところ大変ですね……」

 市選管は、申し立てから30日以内の12月8日までに当選の効力について判断するという。そこで不服があれば、県の選挙管理委員会に異議が申し立てられる。そこでも決着がつかなければ高等裁判所という手順になる。

「決着までに何ヶ月かかるかわかりませんが、自分は議員をやりたいし、『勝手につくば大使』の活動も続けていきたい。12月3日の初議会には議員として参加します」

 不安定な状態でのスタートにはなるが、それでも「勝手につくば大使」は元気だった。

「自分は議員の使い方を市民の人に知ってもらいたいんです。不満や要望があった時、市議にどう頼めばどうなるのかを理解してもらえれば、選挙に出る人も増えるし投票する人も増える。こうすれば正しく要望が通せるんだと、自分の活動を通じて伝えたい。遠い存在の議員ではなく、声をかけやすい議員として使ってもらえたらと思っています」

 「勝手につくば大使」に話を聞いているのに、うっかり聞くのを忘れていた。そもそも、つくばの魅力ってなんですか?

「一番の魅力と言われると難しい! いろんな魅力があるんです! 自分は『勝手につくば大使』としていろんな人に出会っていく中で、つくばの人を一人ずつ好きになっていきました。そうした人たちの集合体がつくば市です。毎日、その輪を広げたり関係を加速させたりすることで、前よりもどんどんつくばが好きになっています。つくば、めっちゃ好きで、全部最高です!」

 もし、つくば市以外で選挙に立候補していたらどうなっていましたかね?

「1票も入らなかったんじゃないですかね! だって、つくばじゃないんだもん(笑)」

「『勝手につくば大使』の当選無効を求める異議申し立て」が行われた小村さん。どうする?どうなる?「勝手につくば大使」。(撮影/畠山理仁)
「『勝手につくば大使』の当選無効を求める異議申し立て」が行われた小村さん。どうする?どうなる?「勝手につくば大使」。(撮影/畠山理仁)
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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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