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消息を絶ったホームレス区長候補者を探す選挙のない暑い夏

台東区長選挙に出続けるホームレス路上演奏家を覚えていますか?

 私は今のところ、元候補者たちのエネルギーを一人で受け止めている。私が選挙権を持たない地域の元候補者からも連絡が来る。時々、「なぜ私に?」と思うこともある。
 しかし、元候補者たちと話しているとよくわかる。元候補者たちは「政治の話を誰にしたらいいのか」と迷っているのだ。
 政治の話を堂々とする人はまだまだ少ない。だから他人に迷惑をかけてはいけないと思っている。そこで、記者である私なら大丈夫だろうと、思いの丈をぶつけてくれている。

 みなさんは連載第3回で取り上げたホームレス路上演奏家の武田完兵氏を覚えているだろうか。自宅を追われ、ホームレスになっても選挙に立候補している路上演奏家だ。

 武田は選挙の後も継続して私に手紙を送ってくれている。武田は自宅を失い、携帯電話などの連絡手段も持っていない。そのためこちらから連絡を取ることは難しいが、折に触れて消息を知らせてくれている。
 武田がホームレスになったのは2018年10月。私が武田をこの連載で取り上げた2019年12月の段階では、武田の荷物はまだ「元自宅」の前に積まれていた。しばらくはそこに行けば武田に会うことができた。

 ところがその後、武田は元自宅前に置いていた荷物や自転車も撤去しなければならなくなった。自宅の立ち退きをめぐる裁判に負けてしまったからだ。
 そこから武田と連絡を取ることは極めて難しくなった。知人から「JR浅草橋駅で武田がキーボードを弾いていた」という目撃情報が寄せられたときには「会えるのは今しかない」と思って現地に向かい、武田を探した。
 寒い冬の夜だった。武田はJR浅草橋駅近くの歩道に自転車と大荷物を置き、単一電池六本で動くキーボードの前に座っていた。
 武田はサンタクロースのような立派な白いひげをたくわえた風貌をしている。私が声をかけると、武田は大切にしているキーボードで軽やかに「ジングルベル」を弾いてくれた。

4月から武田の手紙が届かなくなった……

 それから8カ月が経った今年8月上旬。私は別の知人から「武田完兵さんは今どうしているんですか?」と尋ねられた。
 あっ、と思った。そういえば、武田から手紙が届いたのは4月が最後だ。しかし、こちらから連絡を取ろうにも手段がない。
 私はすぐに武田の元自宅跡を訪ねてみた。更地となった自宅跡にはアスファルトが敷かれ、駐車場になっていた。以前はその前の私道に置かれていた武田の荷物もきれいに片付けられていた。

 武田はどこへ行ったのか。

 昨年末、武田が路上演奏をしていた場所も訪ねてみた。しかし、そこには「駐輪禁止」と書かれたバリケードが厳重に設置されており、武田の荷物も姿も見つけられなかった。

以前、武田がいた場所は立ち入り禁止になっていた。(撮影/畠山理仁)
以前、武田がいた場所は立ち入り禁止になっていた。(撮影/畠山理仁)

 なにか他に手がかりはないか。そう思ってSNSを検索すると、武田による路上占拠を厳しく糾弾する人物の書き込みを見つけた。その人物の情報によると、武田は何度も警察に通報され、今年1月下旬に荷物ごと移動させられたようだった。
 以前、私に武田の目撃情報を教えてくれた知人にも聞いてみた。

「そういえば最近、見ないですねえ」 

 元自宅を追われた武田はかなり多くの荷物を持っている。一時期、それらの荷物をトランクルームにあずけており、その支払いが生活を圧迫しているという話も聞いていた。
 それとは別に、武田はリヤカーを所有している。自転車も5台持っている。その置き場所を訪ねてみると、荷物を覆うブルーシートには裁判所からの呼出状が貼られていた。

 呼出状を読んでみると、武田が自宅を立ち退く際に失った財産の損害賠償を求める裁判に関するものだった。裁判の期日は8月3日。私が訪ねた時には、すでに期日は過ぎていた。リヤカーの様子から想像すると、しばらく武田が訪れた様子もみられない。
 私は急に不安になった。武田は大丈夫なのか。元気でいるのだろうか。

 私は武田の消息につながる情報を探すため、武田が私に送ってきた100枚以上の手紙を再び最初から読み返した。
 すると、手紙の中に、ある簡易宿泊所の名前が登場していたことに気づいた。
「ここはすぐに出るつもり」
 武田の手紙にはそう書かれていた。その手紙からはすでに4カ月近く経過している。しかし、手がかりはこれしかない。私は台東区内にある簡易宿泊所を訪ねることにした。

武田のリヤカー置き場。(撮影/畠山理仁)
武田のリヤカー置き場。(撮影/畠山理仁)
リヤカーには呼び出し状が貼られていた。(撮影/畠山理仁)
リヤカーには呼び出し状が貼られていた。(撮影/畠山理仁)
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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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