よみタイ

畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」

NHKの出口調査も有権者との握手もなし? 新型コロナウイルス禍に行われた熊本県知事選挙、現地ルポ

当選確実となった瞬間の蒲島氏事務所。その後すぐに屋外の駐車場へ。(撮影/畠山理仁)
当選確実となった瞬間の蒲島氏事務所。その後すぐに屋外の駐車場へ。(撮影/畠山理仁)

本当に「無駄な選挙」だったのか

 翌日の投開票日、私は19時半頃に蒲島郁夫候補の選挙事務所に行った。

 投票箱が閉まる5分前になると、外の駐車場で待っていた50人ほどが選挙事務所に入り、テレビの前に集まった。入り口ではマスクが配られた。室内に集まる時間を極力短くし、感染リスクを低くしようという配慮だった。

 午後8時になると、地元テレビ局が蒲島候補に「当選確実」を打った。いわゆる「ゼロ打ち」(出口調査や情勢調査の結果から、開票がゼロ票の段階で当確を打つこと)だ。
 事務所内でマスクをした大人たちが「ウォー」と歓声を上げる。しかし、すぐにみんな事務所から出されて屋外の駐車場に移動する。蒲島氏も県庁から会場に到着して挨拶をした。

「心配した投票率も、多分44%ぐらいの数字に落ち着くんじゃないか(実際は45.03%。前回の51.01%より5.98ポイント減)。私が一番恐れたのは史上最低の投票率。でも、よくぞ44%到達したなと」

 投票に行った人は半分に満たない。これはある意味当然だろう。
 街頭演説を目にすることがなければ、有権者の関心も高まらない。不特定多数が訪れる屋内の投票所に行くことを敬遠した人もいた。このような状況で投票率を上げるのは難しいが、解決策を考えない状態もおかしい。有権者の大切な権利を安心して行使できるようにするのも政治の仕事であるはずだ。
 結果は蒲島氏437,133票、幸山氏216,569票。ダブルスコアで蒲島氏が当選した。

 開票の翌日、私は県内の仮設住宅で避難生活を送る75歳の女性にこう言われた。

「まったく無駄な選挙ですよ。なんで復興の途中で選挙をやらなきゃなんなかったのか。私は蒲島さんに入れたけど、まだまだやってもらわなきゃいけないことがある」

 しかし、私はそうは思わない。幸山候補が立候補したことには意味がある。
 それは当選翌日、蒲島氏が県庁での記者会見で語った言葉からもよくわかる。蒲島氏はこの日の会見で、選挙中に幸山氏から批判を浴びた空港アクセス鉄道計画について、次のように言及した。

「選挙でこれだけ争点化したので、議会もメディアも県民も関心が高い。その中でみんなで議論して、どのアクセスが一番いいのか。ここから始めていいと思うんです。空港アクセス鉄道がいいのか、幸山さんが言ったバス高速輸送システム(BRT)がいいのか。同じ条件で議論していけばいい」

 もし、幸山氏が立候補していなかったら、この言葉は出なかっただろう。県政の課題を表に出す意味でも、幸山氏の立候補は無駄ではなかったと私は思う。

 熊本県知事選挙が終わった後、東京オリンピック・パラリンピックが「一年程度延期」されると決まった。
 しかし、6月18日告示、7月5日投開票予定の東京都知事選挙が延期されるという話は聞かない。つまり、有権者は「コロナ警戒下での選挙」を今から覚悟しておく必要がある。

 貴重な一票を無駄にしないよう、準備をしてほしい。

選挙前日と翌日に訪れた益城町役場仮庁舎。まだ熊本県は震災からの復興半ばだ。(撮影/畠山理仁)
選挙前日と翌日に訪れた益城町役場仮庁舎。まだ熊本県は震災からの復興半ばだ。(撮影/畠山理仁)
1 2 3 4

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

週間ランキング 今読まれているホットな記事